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お題小説 カレイドスコープ
第1章 kaleidoscope
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 田舎に帰省するのは約10年振り…

 最後に帰省したのは28歳の時のころの、ちょうど今と同じ夏、7月半ばであった。

 あの当時は某大学の建築科を卒業後に就職した、いや、就職できたゼネコンと呼ばれる某大手建設会社でようやく現場監督になれた年…
 つまりはようやく係長に昇進できた年。

 だから胸を張って田舎に、実家に、いや、子供の頃から可愛がってくれた、そして女手一つの忙しい看護師の母親代わりに俺を育ててくれたばあちゃんに胸を張って会いに帰ったあの時が…
 最後の帰省であったのだ。

 だがその帰省も…
 32歳の時に紆余曲折はあったのだが、元請と下請けの両方の会社を巡っての建設資材の不正収賄という上司の汚職事件に巻き込まれ、そして当時は現場監督だったが故にその責任の一端を被せられてしまい、会社をクビになってしまったあの時以来…
 帰ってはいなかった。

 またそのクビになった事実は母親にはとても告げられず、ましてやばあちゃんにも云えられずにいたのだ。

 その後、なかなか再就職もままならず、色々彷徨ったあげく、結果的には誰でも勤められる警備会社の、いや、警備員としか採用されなかったのである。

 そしてその警備会社は人材派遣等と同じ様な日給月給制であり、それまでの収入の三分の一以下となってしまい…
 長期の無職の期間のせいもあり、あっという間に生活にも困る程に陥ってしまったのだが、その時もばあちゃんの仕送りに助けられたのだった。

 だからとても母親には本当の事は告げられぬまま、いや、もちろんばあちゃんにも話してはいなかったから…
 余計に帰省ができず、いいや、帰り辛く、約10年も間が空いてしまったのである。
 
 だがばあちゃんはそんな俺に、何も聞かずに母親には黙って秘かにずうっと仕送りを続けてくれていた…
 そんなばあちゃんが突然亡くなってしまったのだ。

 俺は何を置いても帰る、いや、帰りたかった…



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