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第1章 一話　見合い　１

　秋葉乃秀樹は開業医の父の跡を継ぐことがあたりまえのように育てられ。しかしそれはかなわぬ夢だった。医師としての自覚や資格が足りなかったわけではない、他の職業に憧れたからでもない。医師になるには致命的な欠陥があった。血を見るのが無理だった。医師として跡を継ぐだけが跡継ぎではない。叔父にいわれた。医大に進み医師免許の資格を取ったが商社に入社し医薬品や治療器具などを扱う部所を希望し、将来的には経営面で秋葉乃クリニックの跡を継ぐのに備え仕事を憶え仕事がおもしろくなったときに父が他界した。必然的に秋葉乃クリニックの二代目になった。
　「秀樹。兄貴が亡くなってもう一年か、よく跡を継いでくれたな。よくやってくれてるよ」
　「伯父さんが味方になってくれてるからですよ」
　血を見るのが苦手で跡を継ぐのに抵抗があった。秋葉クリニックのスタッフはそれは知らない。息子とはいえ商社から畑違いからの転職。風当たりはたたあるが叔父がいるから二代目としてやっていけている。飲む打つ買う。昭和の時代を感じさせる叔父。全国から名指しで執刀医として重宝されている名医だ。
　「それで今日はなんの話なんですか」
　「兄貴が亡くなって、もう一年だ。喪に服した。オマエもいつまでもちょんがでいるのはどうなんだ」差別用語なのかそうでないかわわらないがちょんがとは独り者という意味だ。
　「いろいろ大変ですが跡を継いでこれからです。まだそこまでは」
　「紹介したい人がいる」
　亡き父の跡を継いで一年。いろんな人から、業者や入院患者からも院長名なのに独身なんですね。いい人いますよ。院長というのはモテるではないが結婚相手には困らないくらい安心があるようだ。よく見合い話を持ち掛けられる。
　「めずらしいですね叔父さんからそんな話は」めずらしいというよりはじめてだった。
　「どうしても断り切れなくてな」叔父さんはバツが悪そうに頭を搔く。
　「どなたの紹介ですか」
　「医大の先輩が開業医をしている。そこの看護師長で先輩の愛人だ。それがバレそうになり見合いでいいからだれか適当な奴はいないかといわれた」
　医大の先輩の愛人と見合いをさせようとしているの。頭おかしいんじゃないんですか。本気でいってるんですか。ふつうならそうなる。だが叔父は医大に進んだお祝いに銀座のクラブを奢ってくれたくらい、どこか浮世絵は慣れしている。