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奴隷館 Crime d’amour〜Mの肖像
第1章 プロローグ Crime d'amour 〜 愛の罪
 広い駐車場の隅に車を止めた。五十台は収容できるその空間はがらんとしていた。今は一台だけ、白いメルセデス……Cクラスのセダンの先客がいた。車内には誰も乗っていない。

 白い柵の向こう、まばらな白樺の林の隙間から湖面が見えた。深い蒼に沈む穏やかな水面に空が写っている。まだ明るいけれど、夏が終わかけた今の季節は、すでに太陽は西に傾いており、午後の三時を回ったばかりだというのに、早くも夕暮れの気配を感じる。湖からの風も涼しい。

 東京から高速に乗り、四時間ほどで着いた。ここはN県の北のはずれ、バブル期には高級リゾート地として栄えた湖のほとりだ。その湖畔に建つ瀟洒な白い館、"Crime d'amour"が私の目的地だ。

 元々は、とある企業の研修施設兼保養所だったと聞いた。優に千坪はあるだろう。閉鎖されて久しかったその物件をレディSの組織が購入し、補修、改築のうえ、会員および関係者専用の滞在施設に変えた。建物の中には、コンサートができるほどの広さを持つホールや、高級ホテル以上の、宿泊のための部屋がいくつもある。
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