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なりすました姦辱
第2章 制裁されたシングルマザー
 部屋を出る前に、タブレットのフロントカメラを起動して鏡代わりにし、手櫛で髪の乱れを整え、メイクに崩れが無いかをチェックしている。これから戻る執務場所の同僚たちの目がどれだけ厳しいのかは知らないが、とっくに呼び出した当初の姿に戻っているように見えるのに、甚だ入念で保彦を苛立たせた。タブレットを消し、寸時、土橋と見つめ合うが、やはり何もないことを知り、目線を落とした先に吐瀉の痕を見つけ、パンプスで踏み躙ってフロアカーペットへ塗り延ばしてようやく、退室の準備は整ったようだった。

「──あら、広瀬さん」

 部屋を出てすぐ、澄んだ声が聞こえてくると、汐里は肩を弾ねさせた。

「ディレクター……」

 汐里の向いた先から、腕組みをしたまま一人の女が歩いてくる。ミディ丈の白地のマーメイドスカートの裾を左右に揺らし、その上は黒のVネックブラウス、そして何を置いても、マルーンカラーのジャケットが目を惹いた。潔く額を見せるシニヨンヘアは彼女の自信を静かに語り、凛然とした佇まいに一層の力を添えている。

 遠目では、高いヒールとハイウエストなスカートがそう見せるのかと思ったが、保彦たちの前に立つと実際に背が高かった。決して薄いとは言えないメイクだが、厚化粧で誤魔化しているという印象は受けない。汐里と出会ったときも「綺麗なお姉さん」だと思ったが、それは自分が若すぎるからだったのかもしれない、この女は正真正銘の、成熟した女の色香を匂い立たせていた。

 そして同じく、遠目では「可能性」に留まっていたが、

(おっぱい、でけ……)

 ジャケットの襟のラインの弯曲は腕組みだけのせいではなく、ブラウスをいっぱい張るほどにバストが隆起していた。背伸びをしてでも、Vネックから中を覗き見たい衝動に駆られていると、

「こんなところで何をしているの? 誰か来るのかしら」
「いいえ、内部の打ち合わせです。上の会議室が空いてなかったものですから」

 他人の目に見つかってしまった汐里だったが、狼狽を引きずることはなく、瞬時に仕事中らしい口調と表情に戻したところはさすがと言えた。

 すると女が、こちらへ目を向けてくる。

「えっと、あなたは……」

 見た目のインパクト大の土橋であるから、女の印象にも残っていたようだが、名前までは記憶していなかったようで、首から提げているIDカードを一瞥し、
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