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わたしの昼下がり
第4章 開く
 あの男が再訪を約束した日が近づくにつれ、セックスしたいという欲求も高まっていきました。家事をしていてもお買い物をしていても、下半身が四六時中疼いているような気がしました。夜は声を押し殺して自分を慰め、一人になれる昼間は存分に自分を慰めました。『存分に』と言っても所詮は自慰。目いっぱいいやらしい妄想をして指に気持ちを込めてはみても、自分の指はあの男のソレの代わりにはなりませんでした。一日一日がこんなにも長いなんて…。

 それでもその日は徐々に近づいてきました。近づくにつれ、いろいろなことが心配になりました。夫や娘たちが急に風邪をひいて家にいるようなことになりはしないかとか、わたしにしても急に月のものが始まったりしないかとか…。

 ようやくその日が来ました。朝、夫は普段通りに出勤していきました。

 『ご主人ともちゃんとヤっておいてくださいね…』

 わたしの膣内《なか》に射精してあの男はそう言っていましたが、結局、夫とセックスすることはありませんでした。

 娘たちもランドセルを背負って登校しようとしています。下の娘が何度か咳をしています。いやな予感がついに当たってしまったのでしょうか。

 「どうしたの? 風邪でもひいたんじゃないわよね?」

 つい咎めるような口調になってしまいました。振り向いた娘がおびえたような表情をしたような気がして慌てて言葉を添えました。

 「大丈夫よね? 具合が悪くなったらすぐに先生に言いなさいね」

 でも心の中では別なことを願っていました。

 (お願いだから早退なんかしてこないでよ…)

 すると、今度は出て行ったはずの夫が戻ってきました。

 「なんだ? どうかしたのか?」

 (それはこっちのセリフよ…)

 「どうしたの? 忘れ物?」
 「折りたたみ傘あっただろ? 雨が降り出しそうだぞ。鞄の中を見たら入ってなかった。雨に降られながらバスを待っているというのも惨めだからな」

 (驚かせないでよ…)

 夫は玄関の靴箱の上にあった傘を取って階段を下りていきました。二人の娘にも傘を持たせました。階段の踊り場から外を見下ろして、学校へ歩いていく姉妹の後姿を見送ります。下の娘が振り向いてわたしに手を振りました。わたしも手を振り返しました。そしてもう一度心の中で祈ったのでした。

 (お願いだから早退なんかしてこないでよ…)
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