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誰にも言えない、紗也香先生
第2章 3回目のレッスン
物語の始まりは、その春でした。

春の夕焼けが、窓辺をうす桃色に染めている。
静まり返った教師室に残されたのは――
一人の女教師と、一人の男子生徒。

「……先生、英語が苦手で、どうしても……」

立っているのは、野村 雄くん。
高校三年生。無口で、いつも少し俯きがち。
クラスでは孤立しているという噂もある。

私は椅子に腰かけたまま、彼を見上げた。
「……週末、空いてる? あなたの家でもいいなら」
自分でも、あまりに即答だったと思う。

彼は目を瞬かせて、少しだけ口元を揺らした。
驚いたような、戸惑ったような、だけど――
どこか嬉しそうな顔。

あ……今の、ちょっと……
可愛い、と思った。
教師として、まずい感情かもしれない。
でも春という季節は、いろんな芽を、知らぬ間に揺らしてしまうのだ。
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