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誰にも言えない、紗也香先生
第4章 彼の初めての「答え」
「先生、あのさ……まだ、話あって……」

勇くんは、少しだけうつむき加減で言った。

「うちの、おばちゃんも……先生に感謝してた」
「アームバインダーの話した日から、お客さん、すごい増えたって……」

「ち、ちがうの、それは……っ」
私の喉が渇いて、声にならない。
顔から火が出そうだった。いえ、出ていたに違いない。

「……先生はさ、もしかしたら、大人気者になるかもしれない」
「でも……」

ふいに、彼の声が少しだけ掠れた。

「おれだけの先生に……したかった、な……」

最後の言葉は、誰かに聞かせるものじゃなかった。
自分自身にそっと置いたような、壊れものみたいな声だった。

心が、きゅっと縮んだ気がした。
なのに、妙にあたたかかった。

「……あ、また、週末のレッスン……お願い、します」

彼はそう言って、深く頭を下げ、
すぐに人の流れに紛れるように消えていった。

私は、ぽつんとその場に残されたまま、
自分の手のひらを見つめていた。

ふれてもいないのに、指先がふるえている。

“おれだけの先生に、したかった”
その言葉が、心の奥に、
そっと花の種のように落ちた。

まだ蕾にもならないのに、
胸の奥が、そっと温かくなっていくのがわかった。
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