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巫女は鬼の甘檻に囚われる
第15章 罪深きおこない

「おぬしは何も知らぬのだ!」
領主は立ち上がり、声を張り上げた。頭に被っていた黒い甲冑を脱ぎ捨て、横に投げる。
「我ら侍は、これまで命をかけて帝をお守りしてきた。だがっ……我らの地位はいっこうに上がらず、贅沢ざんまいの貴族どもから下に見られる、この屈辱的な扱いを!」
その剣幕に、巫女は一瞬怯んだ。
だが、すぐに床についた掌をぎゅっと握り、声を落ち着かせる。
「お察しします」
彼女の声は静かだが、内に秘めた力が響く。
「ですが、自らが虐げられているから、自分よりもさらに地位の低い方々を虐げてよいという道理は、ございません」
「…っ…!? 農民どものことか。畑を枯らし、病を流行らせたのはあれらの責任だ。自業自得というものよ」
「自業自得……?」
領主が吐き捨てた言葉を耳にして、巫女の声に、冷たい感情が滲んだ。彼女はさらに顔を高く上げ、領主を真っ直ぐに見据えた。
「人が人らしく生きる権利は、平等に与えられなければならぬもの。士族も農民も、男も女も、その者の業(ゴウ)も関係ありません。いついかなる時も、理不尽に奪われてはならぬ物です!」
彼女の放つ言葉が、宮中に重く響いた。
部屋の外で待機する侍たちのざわめきが止まり、御簾(ミス)の揺れも静まる。領主の顔は怒りに歪み、しかしその中に、隠しきれない動揺が露呈された。
巫女の凛とした声は、まるで神の光を宿したように輝き、彼女の言葉は宮中の空気を切り裂いたのだ。

