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わたしのお散歩日記
第14章 社員旅行
 旅行には隣の課のAさんも参加していました。独身で四十代半ばくらいのひと。普段近寄りがたい雰囲気を醸し出しているいわゆる『お局様』。彼女が納得のいかない経理の書類は絶対に通らないと評判です。彼女がこういう行事に参加しているのが意外でした。そして、すごく大きなカバン。

 『今年も期待してるよ』

 彼女がエライ人から声を掛けられ、職場と同じように表情も崩さないで会釈しています。
ています。『通過儀礼』が昔からあるのであれば、彼女はかなり前に経験されているのだとは思いますが、毎年の社内旅行でなにか余興を披露されているのでしょうか。そんな彼女も大きなカバンを抱えて割り振られた部屋に向かっていきました。

 お部屋は余興に出る女子新人社員三人の相部屋でした。浴衣に着替え、座椅子に座って足を投げ出します。余興なんていうものさえなかったら、もっと楽しい旅行なのに…。くつろいでいると1時間もしないうちに、幹事の人が旅館の中を声を掛けて宴会を始めることを告げて回っています。わたしたちも会場の大広間に向かいました。

 大広間にはお膳と座布団がずらっと並んでいます。わたしたちは幹事さんに指定された隅の方に座りました。エライ人が乾杯の音頭をとって宴会が始まります。お膳の上には美味しそうなお料理が並んでいますが、余興のことが気になってあまり喉を通りません。

 いつの間にかAさんが隣に来ていました。

 『余興のことが気になっているの? ちょっとは食べないと悪酔いしちゃうわよ。お酒も飲んで勢いをつけないとね』

 彼女がビールを注いでくれました。

 『い、いつもお世話になってます』

 わたしも慌てて彼女のコップに注ぎ返します。彼女は一気に飲み干してみせました。無表情のままなので、ビールではなくただの水なのかと思わせられました。わたしもAさんの飲みっぷりに触発されてビールを一気に飲み干したのでした。Aさんの口元が少し笑っているように見えました。

 『それでは、余興をしていただく方はそろそろご準備をお願いします』

 瓶ビールを手にした幹事さんがお膳の間を歩いていきます。

 『出番が来たわね。仕度しましょうか』

 Aさんがスッと立ちました。なぜか周囲の社員たちが盛大に拍手をしています。わたしたちも慌てて腰を上げると彼女についていきました。
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