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わたしのお散歩日記
第14章 社員旅行
 舞台の右手の袖にはちょっとした小部屋がありました。いつもは座布団でもしまっておく場所なのでしょう。襖を開けて中に入ります。左手の袖にも小部屋があるようで同じく余興をする男子社員がはしゃいでいる声が聞こえてきます。

 Aさんがあの大きな荷物が既に置かれていてAさんがそれを開きました。中には色とりどりの布と小物が詰まっていました。彼女にとっての余興がいかにも「毎年のこと」という感じをさせています。

 『はい、これ。あなたの』

 Aさんから不意に『衣装』を差し出されました。

 『えっ、衣装なんか着るんですか?』

 わたしが戸惑いながら訊くとAさんはきょとんとした貌をしています。隣の課の子が慌ててわたしに説明しました。

 『あ、ごめん、話してなかったね。あのね、はじめは一人で唄うつもりで、衣装はAさんが見付けてくださってたんだけど、ほら、後から三人で唄うことになったでしょ? それで、Aさんが同じような衣装を後から探してきてくださったんです』
 『あ、そうだったんですね。ありがとうございます』

 お局様と呼ばれるAさんだけど、後輩社員の面倒見はいいんだ…そんなことを思いながら畳まれていた衣装を開いてみると、とっても”ハレンチ”な衣装。そうとわかっていれば、唄なんか唄うよりよっぽどひとりで手品をしたほうがよかったと後悔しました。

 『どういたしまして。お代とか要らないから』

 そう言いながらAさんはカバンの中を整理しています。

 『こんなの着ることになってたの?』

 わたしは隣の課の子に小声で訊きました。

 『衣装のことをきかれたから、”浴衣で唄えばいいんじゃないんですか?”って言ったら、”冗談でしょ?”みたいに言われちゃって。”なんにも用意してません”って言ったら”探してきてあげる”って言われたものだから、断ることもできなくて…』

 家で既に何度か着てみたというその子は、言い訳しながらもなぜかうれしそうで、すぐに着替えを始めます。

 (なんでこんな衣装で平気なの? もしかして露出狂なの?…)

 心の中では毒づいては見ても、今さら、わたしはやめるという訳にもいきません。わたしも彼女が着替える様子を横目で追いながら着替え始めました。
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