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わたしのお散歩日記
第1章 古びたアパート
 いつの間にか日も落ちかかって薄暗くなっていました。夕食の仕度もしていないのに、これ以上、探偵ごっこをしてはいられません。わたしは家に向かいました。あの部屋に明かりがついているのは初めて見ました。あの二人の女の人は顔見知りであの部屋を二人で使っているのだと思いました。お家賃を出し合ったりして。

 子供の頃に男の子たちが『秘密基地ごっこ』で遊んでいたのを思い出しました。わたしが男の子たち『一緒に遊ぼう』と言っても『女はダメだ』なんて断られて、女子は入れない『秘密基地』っていったい何なのよ?…と思ったものでした。その理由は後になんとなくわかりましたけど。あのアパートはあたかもあの女の人たちの『秘密基地』のように思いました。

 その日の晩、夫がわたしを抱きました。

 「おい…ちょっと声が…」

 久しぶりの夫に思わず声を漏らしてしまったのでしょう。夫が腰の動きを止めてわたしをたしなめました。中学生の娘が廊下の向こうの部屋で寝ているのです。

 「ごめんなさい…」
 「いや…謝ることはないんだが…」

 声を上げさせたことが満更でもないのでしょう、夫は不機嫌ではありませんが萎えてしまった様でした。

 「今度のお休みの日に○○町にでも行ってみる?」

 『〇〇町』というのは、連れ込み旅館が立ち並んでいる歓楽街のことで、わたしたちが昔よく使っていたのです。

 「今さら、あんなところをうろうろしていて得意先にでも見られたらどうする。…まあ、我が家もいろいろ気を付けないといけない頃合いになって来たということだよな」

 わたしから身体を離した夫は自分を納得させるように呟いて隣の自分の布団に戻っていきました。

 (声には気を付けるから続きをして…)

 夫にお願いしようと思いましたが、背中を向けてもう寝息を立てていました。夫は性欲よりも体面のほうが大事と見えます。もちろんわたしも娘に夫婦の営みを悟られてはいけないということはよくわかってはいるのですけど…。

 そしてわたしは、あのアパートがあの女の人たちにとってどんな部屋なのかわかったような気がしたのでした。きっとご主人にも内緒のお部屋なのでしょう。住んでいる街を離れて電車に乗って通う秘密基地。わたしも『秘密基地』が欲しくなりました。あまり防音性には優れていない建物のようではありましたけど。
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