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火照りが引かないあなたに
第5章 夜の残り香・続
カーテンの隙間から、灰色の朝が差し込んでいた。

目を覚ました瞬間、腕の中の温もりに気づく。
千紗は俺の胸に額を寄せ、微かな寝息を立てていた。
シーツに絡まる肩先。乱れた髪。昨夜の名残が肌に残っている。

「……起きてるの?」

声をかけると、彼女は目を細め、ゆっくりと頷いた。

「……うん。起きてたけど、動けなかった」
「どうして?」
「また、終わっちゃいそうな気がして……」

俺は何も言えずに、ただ彼女の肩を引き寄せた。
唇を寄せると、彼女は小さく震えて、でも拒まなかった。

「ごめんね……私、ずるいよね」
「……ずるいのは、俺もだよ」

静かな部屋に、ふたりの吐息が重なる。

「ねえ……」
千紗の指が、俺の胸をなぞった。

「こうしてると、また戻れそうな気がする。あなたのこと、忘れた日はなかったよ」
「俺もだ」

けれど、それでも――現実は変わらない。

彼女は、俺の元を離れて、もう別の生活をしている。
すべてを戻すには、何かが足りない。何かが壊れている。

それでも、昨夜のぬくもりを否定することはできなかった。

「せめて、もう少しだけ……ここにいてもいい?」

俺は何も言わず、彼女の髪に口づけた。
抱きしめた身体は、切なくて、あたたかくて、どうしようもなく愛しかった。

朝の光の中で、ふたりはもう一度、ゆっくりと重なった。

この関係に未来があるのかは、わからない。
けれど――今だけは、確かにふたりの時間だった。

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