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火照りが引かないあなたに
第11章 湯けむりの間に
シャワーの水が背を打つ音だけが、静かな夜に響いていた。
湯上がりの熱を逃がすように、俺は露天風呂の隅にある簡素なシャワーブースに身を置いた。湯気が視界を曇らせる。

「…入っていい?」

その声に振り返ると、彼女がバスタオル一枚で立っていた。濡れた髪が肩に張り付き、頬がほんのり赤い。
冗談かと思った。でも彼女は、一歩、また一歩と俺に近づいてくる。

狭いシャワールームにふたり。逃げ場なんて、ない。
「だって、ひとりで涼しくなってるのずるい」
そう言って彼女が俺の胸に手を添えた瞬間、肌に走る感触は、冷たいはずの水よりも熱かった。

水音にまぎれて、彼女の吐息が耳元にかかる。
タオルの端がわずかにずれて、白い肌がちらつくたび、俺の心臓は高鳴っていた。

「こんなとこで…いいの?」
問いかける声が震えていたのは、彼女か、俺か。わからない。

シャワーの水が肌を滑り、彼女の胸元を濡らして透かす。
理性は、とっくに限界を越えていた。
彼女を壁に押しつけると、タオルが落ちて床を濡らした。
彼女の指が俺の背に回る。

熱い。肌も、息も、目線も、全部が燃えているようだった。
でもその中に確かにあったのは、震えながらも求めてくれる彼女の想いだった。

湯けむりの中、シャワーの音にかき消されながら、俺たちは声も感情も深く沈めていった。
静寂の中、ふたりの心臓の音だけが確かに、重なっていた。
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