この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
終わりの温もり、始まりの愛
第5章 沈黙の窓辺

新幹線の車窓に映る風景は、どこまでも滑らかに過ぎていく。
山と川と、時折ちらりと見える町の姿。
二人は並んで座っていたけれど、ほとんど言葉は交わしていなかった。
窓の向こうでは春が少しずつ色を変えようとしている。
けれど、心の内はずっと冬のままだった。
ふと、由紀子の指先が膝の上で揺れるのが見えた。小刻みに、迷うように。
「……さっきの交差点、ちょっとだけ泣きそうだった」
ぽつりと由紀子が言った。
誠一は少し目を伏せて、小さくうなずく。
「……俺も」
言葉にしてしまえば、感情がどこかへ行ってしまいそうだった。
それでも、沈黙のままでは何も伝わらないとわかっていた。
「ほんとは、離れたくなかったのかなって、思った」
そう呟いた由紀子の声は、風景よりもずっと遠くへ流れていきそうで、
誠一は咄嗟にその手を取った。
驚いた顔をする彼女に、何か言葉を足したかった。
けれど、唇はただ震えて、声にはならなかった。
指先だけが、彼女の存在を確かめるように重なっていた。
触れて、離れて、また触れて――
夫婦としての時間はもう終わるはずなのに、まるで、今が始まりのようにも感じられた。
でもそれは、幻だったのかもしれない。
山と川と、時折ちらりと見える町の姿。
二人は並んで座っていたけれど、ほとんど言葉は交わしていなかった。
窓の向こうでは春が少しずつ色を変えようとしている。
けれど、心の内はずっと冬のままだった。
ふと、由紀子の指先が膝の上で揺れるのが見えた。小刻みに、迷うように。
「……さっきの交差点、ちょっとだけ泣きそうだった」
ぽつりと由紀子が言った。
誠一は少し目を伏せて、小さくうなずく。
「……俺も」
言葉にしてしまえば、感情がどこかへ行ってしまいそうだった。
それでも、沈黙のままでは何も伝わらないとわかっていた。
「ほんとは、離れたくなかったのかなって、思った」
そう呟いた由紀子の声は、風景よりもずっと遠くへ流れていきそうで、
誠一は咄嗟にその手を取った。
驚いた顔をする彼女に、何か言葉を足したかった。
けれど、唇はただ震えて、声にはならなかった。
指先だけが、彼女の存在を確かめるように重なっていた。
触れて、離れて、また触れて――
夫婦としての時間はもう終わるはずなのに、まるで、今が始まりのようにも感じられた。
でもそれは、幻だったのかもしれない。

