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終わりの温もり、始まりの愛
第6章 ふたりの影法師

帰り道、駅前のロータリーに降りたとき、夕陽がまっすぐにふたりを照らしていた。
長く伸びた影が、無言で重なりあっている。
「少し、歩こうか」
誠一が言うと、由紀子は頷いて並んで歩き出した。
道端の桜はまだつぼみのままだったけれど、枝の先に微かに赤みが差している。
家に戻れば、娘が待っている。
いつも通りの食卓。けれど、それもあとわずかだ。
ふたりは並んで歩きながら、過去の思い出をなぞるように、ゆっくりと話をした。
結婚式のこと、娘が初めて熱を出した夜のこと、何気ない休日のこと――
それらがどれも、特別な瞬間だったのだと、いまさら気づいてしまう。
「ねえ、あのとき……」
由紀子が口を開いた。けれど続きは言わなかった。
代わりに、立ち止まって影を見つめる。
ふたりの影は、まるで過去と今が重なっているように、
揺らぎながら地面に寄り添っていた。
「ねえ、もう一回だけ、ちゃんと手をつないでいい?」
彼女の声は震えていた。
誠一は返事をせず、ただそっと彼女の手を握る。
あたたかくて、柔らかくて、覚えている感触だった。
けれど、もうすぐ失われると知っているものだった。
影法師は、やがて灯りに溶けて、夜へと消えていった。
長く伸びた影が、無言で重なりあっている。
「少し、歩こうか」
誠一が言うと、由紀子は頷いて並んで歩き出した。
道端の桜はまだつぼみのままだったけれど、枝の先に微かに赤みが差している。
家に戻れば、娘が待っている。
いつも通りの食卓。けれど、それもあとわずかだ。
ふたりは並んで歩きながら、過去の思い出をなぞるように、ゆっくりと話をした。
結婚式のこと、娘が初めて熱を出した夜のこと、何気ない休日のこと――
それらがどれも、特別な瞬間だったのだと、いまさら気づいてしまう。
「ねえ、あのとき……」
由紀子が口を開いた。けれど続きは言わなかった。
代わりに、立ち止まって影を見つめる。
ふたりの影は、まるで過去と今が重なっているように、
揺らぎながら地面に寄り添っていた。
「ねえ、もう一回だけ、ちゃんと手をつないでいい?」
彼女の声は震えていた。
誠一は返事をせず、ただそっと彼女の手を握る。
あたたかくて、柔らかくて、覚えている感触だった。
けれど、もうすぐ失われると知っているものだった。
影法師は、やがて灯りに溶けて、夜へと消えていった。

