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終わりの温もり、始まりの愛
第1章 湯けむりの背中
旅館の露天風呂。硫黄の香りと湯けむりが、夜の静けさに溶けている。
岩に腰掛け、肩まで湯に浸かる彼女の背中を、誠一はそっと見つめていた。白く、やわらかく、湯に濡れて滑らかに光るその肌は、もう自分のものではなくなる――そう思うと、胸が焼けるように苦しかった。

「見ないでよ」

彼女が振り返りもせずに言った。声はとても静かだったが、怒っているのではないことはわかった。
湯をすくって肩にかけながら、誠一は「ごめん」とだけ呟いた。謝ることではないのかもしれない。でも、他に言葉が見つからなかった。

この旅行が終われば、離婚する。そう決めていた。最初から、そうだった。
娘が二十になったら別れよう、と二人で約束していた。どちらかが嫌いになったわけではない。ただ、役目が終わるような、そんな別れ。

だけど今、こうして湯けむり越しに見る彼女が、あまりにも綺麗で、切なくて、胸がかき乱される。

「寒くない?」

その一言に、彼女はようやく首だけ振った。
その動きさえ愛しく思えて、誠一は湯の中で拳を握った。

もう二度と触れられないかもしれない背中。
それが、こんなにも近くにあるのに。
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