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紅蓮の夜に、君をさらう
第1章 炎の宮殿、出会いの夜
「おまえ、綺麗な顔をしているな。王族の者か?」

「……はい」

私は頷き、思わず尋ねていた。

「あなたは……?」

男は返事をする代わりに、脱いでいた上着を無言で羽織り直し、そして、背を向けた。

「……名前は?」

背中越しに、静かに尋ねられる。

「香蘭です。李 香蘭」

すると男は、ほんの少しだけ振り返って、口元にうっすら笑みを浮かべた。

「覚えた」

その声は、火の熱とは別の何かを、私の胸に灯していった。

どうしよう。

あの人は――行ってしまう。

門の外へと歩いて行く背中が、どんどん遠ざかっていく。

火事を見て、たまたま助けに来ただけの庶民の男なのかもしれない。

そう思った瞬間、胸の奥がじんと痛んだ。
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