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智恵の輪
第2章 虜
彼女の「ぁ…ぁ…」という小さな声を聞きながら、背中のX字を間近に見つめてしまう。ある著名人が『演じることが一番難しく、本音を隠しきれないのが背中』と言っていたのを急に思い出した。オシャレに着飾る彼女とは違い、目の前の弱々しく見える背中は、彼女の乗り越えてきた苦しい日々を、心のひずみとして表しているようだった。

『もうあんな経験はしたくない…浅はかな気持ちでこれ以上、私に触れないでほしい…』という彼女からの無言の主張のようだった。彼女の黒いキャミソールはピタリと彼女の体に密着し、背中から肩に伸びる黒い紐は素肌に寄り添うように掛けられていて、彼女の体をしっかりと守り、封印しているようだった。

だから私は彼女の背中を優しく押すべく、そっと背中の素肌に、しっかりと私が側にいることを告げるように、音を立ててキスをした。

彼女の「ふぅっ…ふぅっ…」という息を聞き、そして私の言葉もしっかりと伝えた。

「いつも見られる訳ではないですけど…この服も好きですよ…だからここにも…いっぱいキスしたいです…」
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