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恋かるた
第6章 満つる思いに -如月-

沢田の家の家事代行訪問はいつしか毎月の第3日曜になっていた。
一緒に湯島天神へ行った年明けの土曜日からちょうど2週間が経とうとしていたその日、休日だった志織は課長の井川眞規子から電話連絡を受けた。
“あしたの沢田様、体調を悪くされたからキャンセルしてほしいって”
“わかりました。今月はなしということですね”
“はい、また来月お願いしたいって”
井川の連絡に応答した志織だったが、実はその朝、彼女は沢田からのLINEで体調不良の知らせを受けていたのである。
風邪で金曜日を早退して医者へ行き、今は休んでいるが、日曜はキャンセルしてほしい、という内容だった。
>>お熱とかは?
>微熱だから大丈夫
>>お食事は?
>適当にやって寝るから心配しないで
そのメッセージを志織はすぐには信じることができなかった。
(心配させないようにしているんだわ…)
受験生を持つ身としては風邪を引いたりしないようにすることが最も神経を使うことで、決して移ったりしてはならなかったのだが居ても立ってもいられなかった。
午前中いっぱい迷った挙句、瑞穂と昼食を済ませると作業衣に着替えて志織は車のハンドルを握っていた。
「ごめんね、急に予定が変わって来てほしいってお客さん…」
「大丈夫よ、気をつけていってらっしゃい」
嘘を疑う様子もなく送り出してくれた瑞穂には申し訳なかったが、家でじっとしていることが志織には耐えられなかった。
30分ほどの道のりを車で走ると志織はマンションの下から沢田に電話をかけた。
(出ないわ… どうしたのかしら…)
7回コールしたところで志織はいったん電話を切った。
そして、もう一度かけようとしたところへ折り返しのコールが鳴った。
“ごめん、電話くれたかな?”
“はい、すみません、お休みでしたでしょうか?”
“うん、…で、どうした?”
沢田の声にいつもの明るさがないように思えた。
“今、下にいるんです”
“え!? なんで!?”
“ちょっと心配で… すみません”
“大丈夫だから… 来ちゃだめだよ”
“すぐ帰りますから”
買ってきてほしいものだけ頼む、と言った沢田はようやくエントランスを開け、トレーナー姿で志織を向かえてくれた。

