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恋かるた
第6章 満つる思いに -如月-

「このごろ学校休む子いるの?」
コロナが落ち着いてからインフルエンザが流行り始め、入試前には子供を休ませる親も多いと聞いていた志織は瑞穂に訊ねた。
「まだいないよ」
「瑞穂はどうしたいの?」
「行くよ。学校のほうが楽しいし、情報交換できるし」
親が神経質になっていては却って悪い影響を与えるからまず自分が感染しないように気をつけて、あとは本人に任せておこうと志織は思った。
何事も悲観的にならずにこれまでもクリアしてきてくれた娘が頼もしく、きっとこの子なら大丈夫だと思ったが、不特定の客先へ訪問する自分はどうしたものかと考えていた。
(会社は理解してくれるだろうけど、業務委託の身分だから休めば収入は減るし、評価にも良くない影響を与える…)
仕事上の立場の弱さを改めて感じながら、入試が終わったら井川の推めどおり正社員への道を選ぶほうがいいかなと考えていた。
沢田と逢うことへの不都合もなさそうだった。
さんざん考えてから、入試前の1週間だけは仕事を休むことにした。
そして、今は志織個人として沢田を訪ねることも。
>>申し訳ありません。
入試が終わってからお会いできますか?
>もちろんそうしてください。
仕事としてほかの客先でキッチンに立つこともあったが、見舞いで訪れた沢田の家で何も考えずに僅かばかりの食事の準備と洗濯をできたことが志織には全く別のとても嬉しいできごとだった。
少し元気のなかった彼と並んで食事をしたかったのに、さすがにそれは頑として受け付けてもらえなかったことが残念だったが、逆の立場なら自分もそうすると納得していた。
(あと3週間足らずの辛抱よ…)
志織は少しの間だけ、沢田への想いを封印することに決めた。
いろんな思いが交錯する中、入試前日に志織は学校を休んだ瑞穂といつも初詣に行く神社へお詣りに出かけた。
「明日は頑張ってね」
家に帰ってから志織は湯島天神のお守りを瑞穂に渡した。
「え? いつ行ったの?」
「仕事ついでの時に行ってみたの」
「ありがとう、もう完璧だね」
そう言って母親以上に堂々として笑った娘は、翌朝小雪が舞う中を志織に見送られながら笑顔で試験会場に出かけて行った。

