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家は檻。〜実父の異常な愛〜
第1章 始まりの夜
築百年近い和風建築の一角。
その二階の洋室は、数年前にこよみのために改装されたばかりで、白い壁紙とカーテンが張られ、床は冷たく硬いフローリング。

先祖代々続く老舗の呉服屋の建物の中では異質なほど、無機質な空間だった。

こよみは、ベッドの中で身を丸めていた。
毛布の下で小さな指先を握り締め、天井を見上げる。
目を閉じるのが、少しだけ怖かった。

遠くで軋む階段の音がした。古い建物ゆえ、誰かが上がってくるとすぐにわかる。
続いて、廊下をゆっくりと歩く足音。止まった。

……ギィ。

ドアがゆっくりと開き、誰かが中に入ってきた。

「お父様……?」

反射的に口から出た言葉に応じる声はない。
ただ、ベッドの横に沈む重みと、布団が引かれる感触があった。こよみの体は固まり、まばたき一つせず静かに目を閉じた。

毛布の下、冷たい指がこよみの美しく長い黒髪を撫で、頬へ、そして胸のあたりへと触れてくる。
決して強くはない。けれど、異様なほど、長く、丁寧だった。

何をしているのか、何のためなのか。こよみにはわからなかった。
ただ、心の奥で「これは変だ」と感じながらも、声を出すことはできなかった。

時間の感覚が曖昧になるほどの静寂のあと、布団が元に戻され、足音が遠ざかっていった。

こよみはひとり、ベッドの中で動けないまま、目を開けることもできずに夜を越えた。

それは、その夜だけのことではなかった。
次の日も、またその次の日も、同じことが起こった。

理由は、わからなかった。けれど、もう「眠る」という行為そのものが、こよみにとって安心ではなくなっていた。
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