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魅惑~甘く溺れる心と身体。
第16章 さようならを貴方に~誰かあたしを拾って愛して。

 その先には、お腹ぽっこりビール腹の男の人が立っていた。
 男の人はお父さんと同じくらいの年齢だろうか、スーツ姿でお仕事帰りっぽい。

 口から吐き出された息はお酒の匂いがぷんと漂う。
 その人はお世辞にも格好いいとは言えず、目は小さめで、鼻と口が大きな人。

 なんだか少し陰気くさい感じ……。


 本来なら知らない人に声を掛けられてもそのまま無言で立ち去るんだけど、今の弱り切っているあたしには、ダメだった。

 優しい言葉が胸に沁みる。
 気遣ってくれるような言葉をひとつでもかけられれば、そのまま身を委ねてしまう。

 大好きな唯斗さんに振られて――。
 あたしがいかに愚かだったのかを思い知って、とにかく弱っていたんだ。

「好きな人に振られました」
 グズグズと鼻を啜りながら答えるあたしに、おじさんは隣のブランコに腰掛けた。

「見る目がないね。こんなに可愛い娘を――」
 おじさんはしゃくりを上げながらあたしの膝に触れた。

 ねっとりとした手の感触は少し生理的に受け付けない。
 だけど、今はその手のぬくもりが嬉しくも感じた。
 悲しみですっかり冷えきった身体が人肌に触れられて少し安心する。


「あたしって女性としての魅力ないですか?」
 おじさんを見上げると、身体を舐めるようなじっとりとした視線を感じた。

 ついさっきまで唯斗さんに愛撫されていた身体には僅かだけれどまだ熱が残っている。


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