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イケナイアソビ。
第8章 恋して! ウェアウルフ
(一)
その日は満月だった。
けれども本来明るい筈の視界は、四方八方に伸びた木々の枝枝が藍色の空に浮かぶ月を覆い隠している。
時折、じっとりとした夜風が汗ばむ肌をなぜる。
枇々木(ひびき) 宝(たから)は、背後から迫ってくる『追っ手』から必死に逃げていた。
『追っ手』が何なのかはわからない。それでも宝は『追っ手』が恐ろしいと感じ、ただひたすらに逃げるのだ。
「……はぁ……はぁ」
いったいどれくらい走っただろうか。
一時間のようにも思えるし、たった五分ほどにも思える。
走っても走っても、どんなに足を動かしても出口は見えない。視界は未だ針葉樹に覆われていた。
遠くからは狼だろうか。
遠吠えが聞こえる。
『追っ手』から逃げて、もう随分経つ。
見事相手を振り切っただろうか。
宝が後ろを振り向いたその時だ。
唸り声と共に身体が地面へと叩き付けられた。
背中に鈍痛が走る。
そして目の前に現れたのは、漆黒色をした、大人ほどもある大きな身体をした狼だ。
宝を射貫くその瞳は深い海の中にいるような青色をしていた。
驚くほどその瞳は澄んでいて、見ていると吸い込まれそうだ。
(なんて綺麗なんだろう……)
宝は抵抗するのも忘れ、見惚(みと)れてしまう。
しかし、それもほんの束の間に過ぎない。狼は口の両端にある鋭い犬歯を剥き出しにして呻っている。
どう見ても今のこれは友好的ではない。
狼は宝を食料とでも思っているのだろう。
前足が捕らえた獲物を逃がさない。宝を押さえつける前足のその爪が両肩に食い込み、宝が着ている真っ白なシャツが赤く染まっていく……。
このまま、自分は狼に殺されてしまうのか。
青い目が、恐怖に戦慄(わなな)く宝を写し出す。
そして狼は大口を開け、勢いよく宝の喉元に噛みついた。

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