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イケナイアソビ。
第8章 恋して! ウェアウルフ

 (二)



「うわああああっ!!」
『殺される!』
 そう確信した時、宝は飛び起きた。

「あれ?」

 しかし、宝の視界の先には恐ろしい狼はおらず、針葉樹林もない。カーテンの隙間から漏れる緩やかな陽光。耳を澄ませば小鳥たちがさえずり、朝を知らせていた。
 それはどこにでもある穏やかな光景。

 宝は額から流れる一筋の汗を手の甲で拭い、荒い息を整える。
 早鐘のように繰り返す心臓は徐々に治まり、元の規則正しい鼓動に戻りはじめる。
 鏡に写った自分は悲壮感を漂わせていた。

 身長は一七六センチあるものの、筋肉がつかず、細身で、しかも肩まで伸びた髪は色素が薄い。色白で病弱に見えるのに加えて寝覚めの悪い夢を見たおかげで真っ青だ。

 これでは自分の方がよっぽど怖い。
 幽霊のような今の自分の姿に宝は苦笑した。

 ーーそれにしても、あの狼はいったい何なのだろうか。

 夢自体は恐ろしい夢なのに、なぜか宝はあの狼が怖いとは思わなかった。
 澄んだ青の瞳に、艶やかな漆黒の毛並み。雄々しいその姿はとても神秘的で美しい。

 ここへ来てからというもの、宝はこうして夜毎、決まって夢を見る。狼に追いかけられ、殺されかける夢をーー。

 夢は決まって喉元を噛みつかれる寸前のところで覚めるのだ。

 ひょっとすると、これは何かの暗示だろうか。

 考えすぎだ。ただ見知らぬ土地での暮らしに慣れていないだけだろう。不安な気持ちが夢に現れているのかもしれない。宝は自分に言い聞かせ、小さく首を振った。

 なにせ宝がいるここは、暮らし慣れた都会ではなく、緑生い茂る山の中なのだ。そもそも、宝がここへ来た理由は、仕事先であるIT企業の出張が原因だった。

 会社から言い渡された宝の任務は、顧客を増やすことにある。
 宝の勤務会社はそこそこ名の知れた大手で、だから余計に顧客を必要とする。

 山奥は回線などが通っていないと思われがちだが、実はそうではない。こういう場所にこそ、新規顧客を取りやすい。会社はそこに目を付けたのだった。

 しかしながら入社して二年。まだまだ未熟な宝がなぜこのような重要な立場にいるのかというと、それは宝自らが立候補したからに他ならない。

 立候補した理由はただひとつ。
 宝が好きな人がプロジェクトリーダーに任命されたからだ。


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