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銀狼
第7章 還るべき地
地球の割れ目、切り立つ崖の上には
当然ながら大地があり、森があり…生命の息吹きがあったのだ。
足元に広がる一面の桃色。
遠く目を向ければ深緑の森。
動物たちの息づく草原や
耳をくすぐる多様な鳥々の鳴き声。
そして恵みの湖──。
自然の営みが其処にあった。
「お前が知らぬ世の姿だ」
「……」
「…天は慈悲深い御方だ。還る地を持たない憐れな魂を此処へ導いて下さる」
鳥籠の中──飛べない鳥のような魂を、此の地に受け入れて下さる。
「お前が殺した猟犬は此の森へ還ったことだろう」
「…ラーイが…?」
「──そうだ」
「……ッ」
──広い草原で、仲間達と共に。
ラーイの魂は救われただろうか。
セレナは今の景色を目に焼き付けた。
…こんな世界があったなんて知らなかった。
此処には人がいない。
木も動物も…何もかもが伸びやかだ。
「──…此の地は美しい」
彼の言ったこの言葉は鏡のように、セレナの心境を正直に映し出していた。
銀狼はセレナの視線に寄り添い、彼女と同じ様に眩しそうに目を細める。