この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
銀狼
第8章 雨(アマ)の鎮魂歌
「──…此処にいたのか」
ちょうど背が幹の窪みにおさまった時、木の陰から銀狼が姿を現した。
人型の彼は長いマントの裾で周りの鳥達を払うように歩いてくる。
一瞬固まったセレナはすぐにツンと顔を背けて、両手で包み持つ果実を口に運んだ。
銀狼はそんな彼女の前で立ち止まる。
「…時間だ。日が暮れる前に、私は此の森を降りねばならない」
「……、い、嫌よ」
「口答えをするな…」
「……っ」
彼の言葉に反抗して動かないセレナだったが、同じく銀狼もその場を離れない。
「言った筈だ。此処は私の任された地ではない…。自らの森を離れたところを、天の目に入れるわけにはいかないのだ」
「…天?」
「──我を見張るは、闇夜に浮かぶ月の影。私の天は其処に在られる」
彼にとっても譲れないのだ。
「天が現るまで時…僅か。──…此処を降りる。早くしろ」
黒毛のマントから覗く白い手が、掌を向けて彼女に差し出された。