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助教 沙霧
第3章 忍び寄る支配者
 沙霧は、横たわったまま画面を食い入るように見つめた。
 文面は極めて礼儀正しく、落ち着いた大人の男を彷彿とさせた。だが、その言葉選びの端々に、沙霧が隠そうとしている、あるいは自分でも気づかないふりをしていた深層心理を、正確に射抜くような鋭さを感じる。

 ――内なる自虐的な渇望。

 その言葉を脳内で反芻した瞬間、沙霧の背筋に奇妙な電流が走った。
 見ず知らずの他人が、自分の書いた文字の裏側にそんな淫らな気配を嗅ぎ取ったというのか。

  不快感
  恐怖

 いや、沙霧の内に芽生えたのは、名状しがたい昂揚感だった。
 正体も知れない誰かに、心の最も柔らかい部分を指先で直接触れられたような感覚。

 沙霧は起き上がり、デスクの椅子に深く腰掛けた。
 返信を書こうとするが、キーボードを叩く指が微かに強張る。普段の彼女なら、教えを乞う初心者など適当にあしらうところだ。だが、なぜか「誉」と名乗るこの人物を無視することができなかった。

『貴堂 誉 さま
 コメントありがとうございます。
 和歌は千年の時を超えて、いにしへびとの心の琴線に直接触れる行為です。知識の多寡よりも、歌の調べにどれだけ自身の魂を共鳴させられるかが重要だと私は考えています。
 私の拙い解釈をそのように受け止めていただき、恐縮です。学びをともにする者として、こちらこそよろしくお願いいたします』


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