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助教 沙霧
第8章 仮面の日常(2)
事務局での仕事を終え、夕暮れ時の誰もいない研究室に戻ると、沙霧は力なく椅子に崩れ落ちた。
仮面を維持するエネルギーが、急速に失われていく。
沙霧はスマートフォンを取り出し、ブログの管理画面を開いた。
誉からの新しいコメントはまだない。しかし、彼女は返信を書き始めた。昨夜の「いとなみ」の直後、闇の中で綴りかけた言葉たちが、今度は理性という名のフィルターを通って、より歪んだ、しかし真実を孕んだ形へと再構成されていく。
『……仰る通り、檻は私の内側にあります。しかし、その格子に指をかけ、引きちぎってくれる誰かを、私はどこかで待ち望んでいるのかもしれません。師と呼ばれることに、これほどまでの恐怖と、……そして、名状しがたい甘美さを覚える自分を、私は許せずにいます』
送信ボタンを押す直前、彼女は一瞬だけ躊躇した。
これを送れば、もう「ストイックな研究者」のフリは続けられないかもしれない。誉は、この一文を合図に、私の城壁の中に土足で踏み込んでくるだろう。
だが、彼女の指は、吸い寄せられるように画面をタップした。
送信完了
その瞬間、研究室の静寂の中に、自分の心拍だけが不気味なほど大きく響いた。
窓の外、沈みゆく夕日が、多紀理の全身を血のような赤で染めていた。
沙霧は、デスクの上に突っ伏した。
自分の物語が、自分もとまどうほどあってはならない方向に、残酷に、しかも急速に進んでいく予感。それは、恐ろしいほどの恐怖であり、同時に、震えるような快悦でもあった。
仮面を維持するエネルギーが、急速に失われていく。
沙霧はスマートフォンを取り出し、ブログの管理画面を開いた。
誉からの新しいコメントはまだない。しかし、彼女は返信を書き始めた。昨夜の「いとなみ」の直後、闇の中で綴りかけた言葉たちが、今度は理性という名のフィルターを通って、より歪んだ、しかし真実を孕んだ形へと再構成されていく。
『……仰る通り、檻は私の内側にあります。しかし、その格子に指をかけ、引きちぎってくれる誰かを、私はどこかで待ち望んでいるのかもしれません。師と呼ばれることに、これほどまでの恐怖と、……そして、名状しがたい甘美さを覚える自分を、私は許せずにいます』
送信ボタンを押す直前、彼女は一瞬だけ躊躇した。
これを送れば、もう「ストイックな研究者」のフリは続けられないかもしれない。誉は、この一文を合図に、私の城壁の中に土足で踏み込んでくるだろう。
だが、彼女の指は、吸い寄せられるように画面をタップした。
送信完了
その瞬間、研究室の静寂の中に、自分の心拍だけが不気味なほど大きく響いた。
窓の外、沈みゆく夕日が、多紀理の全身を血のような赤で染めていた。
沙霧は、デスクの上に突っ伏した。
自分の物語が、自分もとまどうほどあってはならない方向に、残酷に、しかも急速に進んでいく予感。それは、恐ろしいほどの恐怖であり、同時に、震えるような快悦でもあった。

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