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エロ本を拾っただけなのに <女子高生・優香>
第31章 《打算と祝福》
──【2023年 秋】

香代子と夫との離婚は、拍子抜けするほどあっさりと成立した。
元凶である夫の浮気を考えれば、弁護士を立てて徹底的に争い、慰謝料をむしり取るのが筋だった。だが、香代子はそれをしなかった。持ち家を売却した代金をきっちり半分ずつ分ける「財産分与」のみを受け取り、その他の金銭的請求は一切放棄したのである。
その代わり、「今後、互いの人生に一切干渉しない」という絶対条件を呑ませ、手打ちとした。

この早期決着は、すべて聡の助言によるものだった。

「裁判が長引けば、妊娠中の優香のメンタルに悪影響を及ぼします。それに……もし向こうの弁護士に、今の優香の状況を嗅ぎ回られれば、面倒なことになりますから」

未成年の女子大生が、親世代の男の子供を身籠り、同棲している。もしその事実が元夫側に知れ渡れば、娘の「管理責任」という名目で、親権や貞操観念を盾に無用な泥沼の争いに発展しかねない。
聡の冷徹なまでのリスク管理に、香代子は全幅の信頼を置いて従ったのだった。

実のところ、香代子がこれほど素直に聡の提案を受け入れ、元夫への執着を捨てられたのには、明確な理由があった。
それは、優香と共に905号室を訪れ、このマンションの「価値」を肌で感じたからである。

都内の閑静な住宅街に建つ、高級ホテルのような設えの高齢者向けマンション。まだ聡の所有物ではないとはいえ、いずれはこの莫大な不動産資産が、1人息子である彼のものになる。
そして、優香と聡が暮らす905号室。決して華美に飾り立ててはいないが、置かれている家具や家電、そして何より部屋に流れる「余裕」の空気は、長年主婦をしてきた香代子の目から見れば、聡の経済力の底知れなさを雄弁に物語っていた。

(先の見えない生活に怯えてあの夫と争うより、この人の大きな器に優香の未来を託す方が、ずっと確実で安心できるわ……)

香代子の胸の内にあった「娘をたぶらかした中年男」への嫌悪感は、圧倒的な経済力と揺るぎない庇護の前に、いつしか娘と自身の生活を守るための現実的な「打算」へとすり替わっていた。
香代子は、聡の手配によってマンション内の空き部屋を与えられ、優香のすぐ近くで、穏やかな新しい生活をスタートさせたのである。
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