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SAKURA(さくら)
第2章 ソメイヨシノ 1 弥生
 5

「か、会社にはさ…」

「………」

「直帰って、云ってあるから…」

「………」

 慶太くんの指先に、ぐっと力がこもる――

「ご飯でも、食べに…」

「あ、いや…」

「え、それとも…帰る………」

「……い、いや………」

 指先が、熱く…

 目が、逸れない―――

「…え………」
 
「あ……い、いや……」

「…………」

 わたしも、逸らさない―――

「あ、運転手さん、その角で…」
 突然、慶太くんが、そう告げる。

「はい、わかりました」

 その角…

 そこには、見上げる程の、白い高層ホテルが、建っていた―――

「………」

 走り去るタクシーの、テールランプを見送り…

 慶太くんは、グッとわたしを抱き寄せ…

「…ぁ……」
 
 初めての…

 彼からの、唇が……

「ん………」

 そして、強く手を握り…

 いや、それは、もう、戻らない強さで…

「………」

「あ…」

 手を引き、エントランスへ…

「も、もう…」

「…え……」

「もう…や、破らなくて……」

「………」

「もう、破かなくっていいっすから……」

「え……」

 強く手を引かれ、フロントへ―――

「お、俺が……」

「………」

「もう……」

「………」

「俺が、破かせないっす……」

 それは…

 慶太からの…

 熱い想いの、誓い―――

「あ、け、けい……た………」
 
 もう、戻らない…

 そして…

 もう、自分からは、破かない―――
 
 破かせない……で。



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