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SAKURA(さくら)
第2章 ソメイヨシノ 1 弥生
 7

「…………ん……」

 わたしは、高層ホテルの窓に差し込む、春暁の陽で、目覚めた―――

 あ、いけない…

 春の夜明けは、日々、早くなっている。

 帰らなくちゃ…

「ふうぅ…」

「………」

 わたしは、上体を起こし、まだ、傍らで、寝息をたてている、慶太の頬を撫でる―――

「………」

 こんなに、愛おしい気持ちになるなんて……

 こんな気持ちは、もう…

 失くしてしまったと思っていたのに―――

「……ん…」

「あ、ごめん、起こしちゃったね」

「…ん…あ、いや……」

「明日、お休みだし、まだ寝てたら…」

「……ん………」

 わたしは、帰らなくちゃ…ならない―――

「…ごめん……ね」

 そう呟き、立ち上がる…

「あっ」

「………」

 慶太が、わたしの左手を握ってきた…

「あ、慶太ぁ…」

 そして、引き寄せ…

「…………」
 唇を、合わせてくる。

「……ん、だ、ダメよ…」
 わたしは、必死に抗い、カラダを起こす。

「…………」

「…あ……」
 慶太は、左手の薬指に触れ、わたしを見つめてきた。
 
「………」

「………」

 逸らずに、お互い、見つめ合い…

「ごめん…」

「………」

「か、帰らなくちゃ…」

「………」

 一瞬の、哀しみの色…

「ごめん…ね……」

 そしてわたしは、左手をかざし…

 薬指に触れ…

「まだ…」

「………」

 逸らずに、そう、囁いた―――


「また…月曜ね………」

「………」

 わたしは、立ち上がり…

「………」

 身支度を整え…

 バタン――

 部屋を出た。

 終始、無言の慶太が、刺さる…

 何も、言わなかったから―――

「ふぅぅ……」

 とりあえずは、帰らなくては…

「あ…」

 エントランスの外に出ると…

 満開を過ぎた、ソメイヨシノが…

 ひらひらと…

 春暁の春風に、舞っていた―――



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