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SAKURA(さくら)
第4章 ソメイヨシノ 3 統括部長
 2

『こ、これからはお世話になろうかしら…』

『ねぇ…ネクタイのプレゼントの意味、知ってます?』

 これらの、美卯くんの言葉…

『はい…これは「サクラ」春の香りです…』

 この、爽やかな「サクラ」のフレグランスを…

 そして、彼女の若さを…

 選んでしまう――

『ねぇ、あなた、オンナがねぇ、ネクタイを選ぶっていうことはねぇ…』

『え…』

『オンナの愛の証しなのよ…』

 まだ…

 弥生と、会話が密だった頃、そう、云われていた。

 それからは…

 せめて、ネクタイだけはと、身に付けていた――


 そして、昨夜…

『ネクタイ…してくださいね……』

 そう、彼女に云われた。

 もう…

 どうせ、弥生とは、戻れない…

 もう、手遅れになってしまった――

 
 だから、一日前に選んだ…

 何かを、置いていくと分かっていても――


 四月…春、卯月。

「…と、統括部長……あ、ほ、本部長…」

「……」

「い、今まで、お世話になりました…」

「……」

「誰にも、いいませんから…」

「……」

「さよなら…」
 
「……」


 私は、今日からは…

『サクラ』を選んだ――

 もっと前を…

 もっと上を、見るために――


 そして、今朝…

「今日から、本部長だ…」

 私は、コーヒーを飲みながら告げる。

「……はい」

 一拍、ズレた返事。

「すぐに、弥生を部長に引き上げるから…」

「…あ…は、はぁ…」

 逸らしながらの、虚ろな返事。

「来月までに…かな…」

「……」

 だが、突然…

 胸元を、逸れずに見てきた。

「あら…」

「………」

「ネクタイが……」

「…あ……い、いや……」

「新しい…ネクタイ…なの…ね…」

 逸れずに、見つめてくる――

「あ、し、昇進だからってさ…」
 
「………」

 逸れない――

「し、昇進のお祝いに……ってさ…
 ぶ、部下から…ぷ、プレゼントなんだ…」

「…ふぅん…そう…ですか……」

「あ、うん…
 だ、たから、今日くらいは着けないとさ…」

「…なんか……」

「……」

「若い…わね…あ、柄が………」

 呼吸が、跳ねる――

「あ、そうか……」

「はい…それに…香りも…若い…みたい…」

 一瞬、呼吸が、止まった――

「………」

 

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