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SAKURA(さくら)
第5章 八重桜 1 弥生
 3

「いやぁ、さすがっす」

「え…」

「いや、弥生課長のおかげで、また、大口契約が、獲れたっす」

「あ、いや、それは、慶太くんの見積もりがちゃんとしていたからよ…」

「いや、違うっすよ、弥生課長が後ろに控えてくれたからこそっす」

「違うわよ、もっと自信持ちなさいよ…」

 帰りのタクシーは、静かに首都高速を走っていた――

 横にそびえ立っている、スカイツリーの先端が、静かに降る春雨のせいで、霞んで見えない…

「散らしの…雨ね……」

「え…」

「この雨で、さくらが完全に散っちゃうってことよ…」

「え、でも、まだ、咲いてるっすよ」

「え、あれは、八重桜ね…
 散っちゃうのは、ソメイヨシノ…」

「あ、そうなんすかぁ…」

「うん…」

「でもオレは、八重桜、ボタン桜の方が好きっすけどねぇ…」

「え、そうなの」

「あ、はい…
 なんか、八重桜の方が艶っぽいっていうかぁ…
 あのポッテリとした、桜に、どことなく色気を感じちゃうんすよねぇ」

「あら…色気なんて…いやらしい……」

「え…あ、な、なんか……」

「……っ」

 その時、慶太くんの手が…

 わたしの膝に、触れてきた。

「な、なんかぁ…」

 わたしは、ビクっと、小さく、脚を震わせてしまう…

「な、なんかぁ、八重桜って、弥生さんみたいに……」

 触れる指先が、熱く感じてくる…

「え……」

「や、弥生さんみたいに、見えるん…す…」

 いつの間にか、課長―が、消えていた。

「ば、ばか…そ、そんなこと…」

 鼓動が、早鳴る…

「いや、ほんとっすから…」

 触れている指が、スカートの裾へと、這い上がり…
 わたしは、それを、上から押さえる。

「あ、ま……」

「も、もう…」

 さっきは、まだ、ダメ…と、押さえたのだが…

「も、もう…いいっすよ…ね……」

「あ………」

 わたしは、小さく、頷く――

「ち、直帰で……」

「うん…」

「……」

「け、慶太くん家…行きたい…な……」

 あの頃には、もう戻れないから…

「う、家っすか…」

 呼吸を飲む…

「き、汚いっす…よ…」

「いいわよ、そんな…」

「や、マジで、汚いっすよ……」

「うん、いい、あ、そうだ…
 お、おそうじ…してあげる…わ…」

 それは、オンナの……ズルさ――


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