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SAKURA(さくら)
第5章 八重桜 1 弥生
 6

「あのネクタイは、美卯にもらったんす」

「知ってるわ…」

 異動の一日前だから、今日まて約二週間…

 連絡どころか、LINEさえもないという。

 そして、あの人と柄違いのネクタイ…

 あの人の残り香が、『サクラ』に変わった事実。

 それはつまり…

 そういうこと、なのだろう――


「そうなんだぁ、そんなに連絡が来ていないんだぁ…
 じゃぁ、寂しいわね……」

 これは、わたしのズルさ――

「い、いや、寂しくなんかないっす」

「………」

「お、オレには、弥生さんがいるから、寂しくないっすから…」

 慶太はそう囁き、わたしを抱き寄せてくる。

「………」

 そう、わたしの…
 
「や、弥生さんが…」

 唇が、近寄ってくる…

「………」

 大人のオンナの…

「す、好きっす……」

 ズルさ――

「……あ、けいた………」
 
 だから…

 あの人の、残り香が変わっても…

「や、弥生さん、好きっす…」

「………」

 慶太の残り香を…

 わたしのムスクに、変えれば…

「け、けいたぁ…わ、わたしも………」

 心は、揺らがずに、保てられるから――
 
「や、弥生さん、好きっす…」

「ああ、けいたぁ……」 

 わたしは、三度目の海に、沈んでいく…

 いや、慶太に、融けていく。

 心の海は、意外に穏やかであった――

「……ぁぁ………っくぅぅ…………ぅ……………」

 ――――――
 ――――
 ―――
 ――
 ―

「……………っ……………はっ…………」

「………………………」

 隣で、慶太が、眠っていた。

「……ふぅぅ……ぁぁ…………」

 どうやら、わたしは、そのまま寝落ちしてしまったみたい…

「………」
 
 慌てて時計を確認すると…

 間もなく、午前二時になる。

「………」
 
 スマホを確認する…

 LINEが一つ…

『新規同行営業で帰れない』

「ふ…」

 わたしは、思わず、笑みが漏れてしまう…

 そして、隣で寝ている慶太を見る。

「………」

 まだ、わたしに…

 言い訳してくれるんだ……と。



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