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SAKURA(さくら)
第5章 八重桜 1 弥生
 8

「……あ、おはようございます………」

 午前六時半過ぎ…

「あら、ごめん、起こしちゃった?」

「あ、いや、弥生さんの気配で…」

「もう、そればっかりなんだからぁ…」

「あ、ほ、ホントっすから」

「うん、ありがとう…
 でも、着替えに戻らないと…さ…」

「そ、そうっすよね」

 そう、今日はまだ、水曜日…
 週末では、ない。

「あ……それより、いいんすか?」

「え…」

「い、いや、朝まで…」

「あ……うん………」

 それは、もう……大丈夫――

「うん、平気……みたい………」

「あ……」

 この、聞いてはこない慶太も…

「ありがとう…大丈夫よ」

 わたしはそう応えながら、爪先に、ストッキングを通していく…

「あっ、ん…」
 
 すると、突然…

 後ろから、抱きしめてきた。

「ん、だ、ダメよ…」

「あ…は、はい……」
 
 だが、まだ、力は緩まない…

「ほら、今日も仕事なんだから…」

「あ………は、はい…」

「ま、またさ…」

「………」

「き、金曜日にさ…」

「………」

「同行しよう……ね…いいでしょう……」

「あ…はい……」

 ようやく、力が緩む。

「ね…」

「………」

 わたしは、立ち上がり、スカートを履く。

「また…会社で…ね……」

「は、はい…」

 そして、部屋を出た。

 まだ、四月初旬の朝は、少し肌寒い…

 わたしは通りに出て、タクシーを拾う。

「ふぅぅ……」

 座ると無意識に、吐息が漏れてしまい…

 そして胸が、少し、ドキドキと波打っていた。

「………」

 だって…

 さっきの慶太とのやり取りは、あの人との、付き合い始めの、あの頃の…

 まるで、デジャブのようであったから――

 そして、それは…

 わたしの心を、後押ししてきた。


 雨上がりの、春爛漫の朝…
 
 車窓から眺める、街路樹の八重桜が…
 
 ほぼ、満開に咲いていた――

 

 
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