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SAKURA(さくら)
第6章 八重桜 2 美卯
 1

「美卯さん、本部長がお呼びです…」

「はい」

 昨日の本部長就任と同時に…

 男性秘書に代わった。

「本部長おはようございます」

 そして、それと同じくして…

 本部長の香りが、シャネルから『サクラ』に変わった。

「お呼びですか…」

 それは、わたしの香り…

 そして、慶太と同じネクタイ――

「準備は整っているのかな?」

 逸れずに、見つめ…

「はい…万全です」

 わたしは、一瞬、逸らしてしまうが…

「そうか、じゃあ、行くか」

「はい」

 覚悟は決めた――


 異動二日目…

 本部長は、就任早々、わたしの企画を推し進め、営業に同行してくれる。

 だが…
 それだけではなかった――


「………」

「え、何か…」

「あ、いや…」

 タクシーの中で、彼が、わたしの横顔を見つめてきた。

「なんか、緊張します」

「そうか、大丈夫、心配ないよ…」

「そ、そうですよね」

「あぁ、大丈夫さ」


「あ、ネクタイ…してくれてる……」

 そうわたしは呟き、ネクタイに触れる…

「……」

 すると、微かに『サクラ』が、香る――
 
「大丈夫、心配いらんよ…」

 そう言って、ネクタイに触れる指に、重ねてきた。

「……そ、そうですよね…」

「ああ、一緒なんだから…」

「そうですよね、ほ、本部長が一緒に同行してくださってるんですものね…」

「………」

「え…」

「……」

 重なる指先が、絡まり…

「……」

 逸れずに、見つめてくる。

 その目は、熱く…

 もう、わたししか写っていないみたい――


 ふと、タクシーの車窓から…

 満開を過ぎ、春雨に打たれ、風に舞うソメイヨシノが目に入る。

「あぁ、きれいだわ…
 まるで…桜吹雪みたい……」

 わたしは、思わず、そう呟いた――

「そうだな…それに、この雨で、散ってしまうなぁ……」

「………」

「あ、そうだ…
 直帰……するって、言ってあるから…」

「………」


 春雨が…

 いや、散らす雨が、静かに落ちていた――



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