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愛と犠牲の果て~人妻を堕とす愛人契約~
第32章 開花した妻の帰宅
壁の向こうから聞こえていた微かな語らいが止み、それからさらに二、三十分ほどの時間が流れた。雄一にとって、その空白は拷問にも等しかった。何を話し、どのような約束を交わしたのか。あるいは、事後の余韻の中で澪がどのような顔をして鬼頭の隣にいたのか。想像すればするほど、胃の底が焼けつくような感覚に襲われた。
不意に、部屋のドアが控えめにノックされた。
重い身体を引きずるようにして雄一がそれに応じると、そこには鬼頭と澪が並んで立っていた。
二人の装いは、昨夜この料亭の門を潜った時と全く同じだった。澪の洋服も、鬼頭の仕立ての良いスーツも、一見すれば乱れ一つない。しかし、雄一の目は、そこに刻まれた「変化」を瞬時に見抜いた。
鬼頭の顔には、もはや隠そうともしない、傲慢なまでの充足感が浮かんでいた。手に入れたかったものを完全に掌握し、その髄まで味わい尽くした男特有の、下卑た悦びに満ちた笑み。
そして、澪。
彼女は静かに目を伏せ、夫である雄一と視線を合わせることはなかった。しかし、その佇まいは変わらず理知的で慈愛に満ち、同時に凛とした一線を保っている。これまでと変わらぬ、良き妻であり、娘の母親としての清廉な雰囲気は、奇跡的なほどに維持されていた。
だが、その「凛とした姿」の奥底から、以前の彼女には決してなかった、濃厚で生々しい艶が、隠しきれぬ香気のように立ち上っていた。
服の下に刻まれた数多の痕跡が、彼女の肌を通して内側から発光しているかのような、暴力的なまでの色香。それは、今この瞬間も凄まじい勢いで「女」としての本能が芽吹き、鮮烈に開花していく……そんな生々しい躍動を伴っていた。雄一は、清らかな母親、良き妻としての器はそのままに、その中身だけが他者の手によって無残にも、しかし美しく開花してしまったことを本能で察してしまった。
「……行こうか」
鬼頭が短く命じ、三人は料亭を後にした。仲居たちの丁寧な見送りを受ける中、雄一は足元の石畳が浮き沈みするような錯覚に陥りながら、二人の後を追う。
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