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愛と犠牲の果て~人妻を堕とす愛人契約~
第32章 開花した妻の帰宅
料亭の前に滑り込んできたタクシーが、静かにドアを開ける。
鬼頭は当然のように、迷うことなく後部座席へと澪を促した。その際、鬼頭の手が極めて自然に澪の腰へと添えられた。澪はその接触を拒むことなく、むしろそれが当然の儀式であるかのように、静かに車内へと吸い込まれていった。
「雄一君、君は前だ」
鬼頭の有無を言わせぬ指示に、雄一は無言で頷き、助手席に乗り込んだ。
バタン、と重厚なドアが閉まる音が、雄一の背後で非情に響く。
バックミラーを覗き込むと、そこには狭い後部座席で並んで座る二人の姿があった。鬼頭はゆったりとシートに深く腰掛け、勝利を誇示するように、その大きな手を澪の膝の上に置いている。澪は目を伏せたまま、窓の外に広がる夕刻の赤く染まり始めた街並みに視線を投げていたが、膝の上に置かれた男の重みを拒絶する様子は微塵もなかった。
運転手が「どちらまで?」と尋ねる。
狭い車内を支配するのは、三人の沈黙と、熱を帯びたままの澪の身体から漂う、濃密な空気。助手席に座る雄一の背中には、自分に背を向け、別の男の手によって鮮やかに開花させられた妻の気配が、刃のように突き刺さっていた。
夕刻の赤く染まった街を走るタクシーの中、その重苦しい沈黙を切り裂いたのは、鬼頭の思い出したかのような低い声だった。
「そういえば、忘れないうちに交換しておこう。澪、君のスマートフォンを」
鬼頭が手慣れた様子で画面を操作し、その端末を澪に差し向けると、彼女もまた何らためらうことなく、静かに自分の端末を取り出した。
「これでよし。これからは、この連絡先でやり取りをすることにしよう」
鬼頭の言葉に、澪は短く「はい」とだけ答えました。そのやり取りには、夫である雄一が入り込む隙など微塵もありません。鬼頭は満足げに鼻を鳴らすと、ついでのように助手席の雄一へ視線を投げました。
「雄一君、君とも交換しておこう。今後の仕事の進捗を共有する必要があるからな」
半ば強制的に連絡先を交換させられた雄一は、手の中の端末がひどく異質なものに思えてなりませんでした。交換を終えると、鬼頭は窓の外を眺めながら、極めて事務的な口調で告げました。
「とりあえず、澪は明日から俺のところで仕事だ。朝から来てもらうことになる」
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