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影を背負った愛~足りない愛を、君に
第17章 【番外編】夢の中の家族と現実の涙~エピソード-1years~
**初夜から半年後——**

神奈川支店の企画部は、いつもより少し静かだった。
夕方6時半。
大内健治は自分のデスクで資料をまとめながら、
時計を気にしていた。
彩香が今日は少し遅いと言っていたから、
一緒に帰るつもりだった。

「大内さん……」

彩香の声が、いつもより小さく震えていた。
健治が顔を上げると、
メガネの奥の大きな瞳が真っ赤に腫れていた。
唇をぎゅっと噛みしめ、肩が小刻みに震えている。

「どうした?」

健治は即座に立ち上がり、
部署の人間に気取られないよう
会議室へ彩香を連れ込んだ。
ドアを閉めた瞬間、
彩香は健治の胸に顔を埋めて泣き出した。

「……お母さんが、ガンだって……。
 昨日、精密検査の結果が出たの。乳がん……
ステージⅡだって……」

健治の胸が、ずしりと重くなった。
彩香の母親・美和子さんは55歳。
看護師として働いていると聞いていた。
一人娘の彩香を女手一つで育て上げた、
芯の強い女性だ。

「…………そうか」

健治は彩香の背中を、大きな手でゆっくりと撫でた。
声は低く、落ち着いていたが、
その指先には力が入っていた。

「彩香。顔を上げろ」

彩香が涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げると、
健治は親指でその涙を拭った。
深く刻まれた皺の間から、
鋭い眼差しが優しく彼女を見つめている。

「美和子さんは、強い人だ。
お前をここまで育てたんだ。絶対に負けない。
俺も全力で支える。一緒に闘おう」

彩香の唇が震えた。

「……大内さん」

「健治でいいと言ったろ」

「……健治さん」

彩香は再び健治の胸に顔を押しつけた。
健治は彼女の細い体を抱きしめながら、
静かに息を吐いた。

(……俺に、こんな資格があるのか)

過去の後悔が一瞬よぎった。
しかし今、彩香の温もりがそれを押し返していた。
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