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影を背負った愛~足りない愛を、君に
第20章 会社で疼く恋~平日の秘密の距離/金曜日~

<彩香SIDE>

金曜日 朝 8時42分 神奈川支店・13F 企画部オフィス前

彩香はエレベーターを降り、近くにある大面鏡の前で深く深呼吸をした。

(……今日は絶対に普通に挨拶する。
 昨夜、健治さんと約束したんだから……)

昨夜のLINEが頭の中でリフレインしていた。
「彩香」って名前を電話で呼んでしまったことへの心配、
プールの記憶でZOOM会議や健治さんへの電話で声が上ずってしまったこと、
そして恥ずかしい想像をしてしまったこと……

そして健治さんの優しくて意地悪な返事。

(「中山さん」ってちゃんと呼んでくれるって言ってくれたのに……
 私、また顔赤くしたり声震えさせたりしたらどうしよう……)

フロア前のドアでもう一度息を整え、ドアを開けてオフィスに入った。

「おはようございます……!」

明るく挨拶しようとした瞬間、視界の奥に健治さんの姿が飛び込んできた。
窓際の課長席で資料をめくっている、
渋い横顔。深く刻まれた皺、口ひげ、厚みのある胸板がスーツの下に浮かぶシルエット。

「……っ!」

彩香の喉が一瞬固まり、次の瞬間、思わず声が大きく上ずった。


「おはようございますっ!!」


オフィスに響くほどの大きな声だった。

周囲の何人かが一瞬こちらを見た。
彩香は耳まで真っ赤になり、慌てて自分のデスクに向かって小走り気味に移動した。
メガネの奥の瞳が泳ぎ、両手で資料を抱える腕が小刻みに震えている。

(やだ……またやっちゃった……!
 健治さんの顔見ただけで声が……昨日の会議や電話のときと同じになっちゃった……!)
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