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純喫茶レモン Moonlight
第1章 恋人になる夜
円香は時々不思議な気持ちになった。

円香は純喫茶レモンの店主で直樹はそこで働く従業員だ。

毎日のようにレモンで顔を合わせていた直樹が、今は自分の部屋にいる。

しかも、こんなふうにすぐ隣に座っている。

店にいるときと何も変わらないように紅茶を飲んでいる直樹を、円香は横目で見た。

――本当に、付き合ってるんだよな。

直樹が休みの日のレモンはどこか違っていた。

従業員の渚もいる。和子もいる。
いつも通り客が来て、いつも通り時間は流れていく。

それなのに、何かが足りない。直樹だけがいない。

客に茶を淹れようと、円香は棚の紅茶缶に手を伸ばした。

この茶葉なら、きっと直樹は長々と説明するんだろうな。

そう思った時、円香は疑問に思った。

どうして直樹のことを考えているんだと。

そう思ってから、円香は自分でもおかしくなった。
直樹のことばかり考えてしまっている自分に。

自分の日常には、いつの間にか直樹がいた。
自分でもよく分からなかった。

信頼しているただの従業員だと思っていたのに。

翌朝――。

「おはようございます」

いつも通り、直樹が出勤してきた。

「おはよう」

円香はそう返してから、直樹の顔を見た。

いつもと何も変わらない朝のはずなのに、円香の胸は高鳴っていた。

「店長、この茶葉は――」

さっそく始まった、いつもの長い説明。
普段なら途中で「長い」と言って切っていた。

それなのに今日は、黙って聞いていた。

直樹の声を聞いているだけで、不思議と安心した。

「店長?」

ずっと黙っている円香を見て直樹が不思議そうに首を傾げた。

「なんでもない!」

「いつもは『長い』って言って3秒で切るじゃないですか」

「そんなことない」

「そんなことあります」

「そんなことない!」

「そうですか。では続けます。この茶葉は――」

円香は直樹の長い説明を聞きながら、ふと胸元に手を当てた。

――なんで?

目の前にいるのは、いつもの直樹だ。
いつものように、紅茶の話をしているだけ。

それなのに、今日はなぜか直樹の声ばかりが耳に残った。

営業中。

茶葉を選ぶ直樹や、渚と話して笑う直樹を、気づけば目で追っていた。

いつもと何も変わらない光景のはずだった。

直樹が棚から茶葉を取り出す。

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