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月曜日の処方箋
第1章 夕暮れと白衣
産婦人科の待合室は、病院特有の冷たい消毒液のにおいがしなかった。
代わりに、ほんのりとアロマの香りが漂い、優しい暖色の明かりが灯っている。
「まずは、ここに座って温かいお茶でも飲んで。慌てなくていいからね」
加藤に促されるまま、陽菜は柔らかいクッションのソファに腰を下ろした。
手渡された紙コップからは、ふわりと湯気が立ち上っている。
両手で包み込むようにしてそっと口をつけ、一口飲むと、冷え切っていた食道からお腹の底へとじわじわと温かさが広がっていった。
制服のスカートを押さえ、緊張で再びこわばる陽菜に気づいたのか、加藤は少しだけ距離をとりつつ、やわらかな笑みを浮かべた。
「……落ち着いた?」
その問いかけに、陽菜はこくりと小さく頷いた。
「……はい。ありがとうございます……」
「よかった」
加藤はホッとしたように息をつき、自身の白衣のポケットに手を突っ込みながら、どこか気まずそうに、けれど優しく笑った。
「僕は加藤。ここの院長してて…今日はお休みなんだけどね」
そう言ってから、加藤は隣に座る陽菜の顔を改めて覗き込んだ。
まだ唇の色は薄く、額にはうっすらと冷や汗がにじんでいる。
その痛々しい様子を見て、加藤はすっと表情を和らげ、さらに声を落とした。
「……まだ顔色がすごく悪いね。
外も寒いし、奥のベッドで少し横になって休んでいきな」
加藤に導かれるまま、陽菜が案内されたのは、待合室の奥にある個室だった。
ここは普段、妊産婦さんたちが新しい命を迎えたあと、穏やかな時間を過ごすための入院用の部屋なのだという。
白を基調とした室内には、ふかふかのシングルベッドと暖かな間接照明、そして木目のインテリアが並び、病院というよりもどこかホテルのような安心感があった。
「今日はお休みでスタッフもいないから、僕しかいないけれど……。
気兼ねしないで、ここでしばらく休んでいっていいからね」
加藤はベッドの掛け布団を軽く整えると、陽菜を優しく促した。
見知らぬ大人の男性と二人きりという状況に、わずかな戸惑いと気恥ずかしさはあったものの、それ以上に底知れぬ安心感と、張り詰めていた糸が切れたような疲労感が勝った。
陽菜は小さくうなずくと、制服のままで、そっとその温かなベッドに横たわった。

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