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父に刻印された身体
第4章 父の瞳に火を灯す夜
父は、胸の奥から重たい息を吐き出した。
「いや、変だと言っているわけじゃないんだ。ただ……」
そこで言葉が途切れ、途方に暮れたように口ぐもる。
私は逃げ道を塞ぐように、まっすぐに父の揺れる瞳を見つめた。
逃がさない。この部屋の静寂も、父が振り絞ってくれたほんの少しの勇気も、絶対に無駄にはしない。
「ただ……なに、お父さん?」
問い詰めるのではなく、甘く包み込むように促すと、父は顔を歪め、苦痛に満ちた表情を浮かべた。
「ただ……その……。……ドキッとする、というか……」
かすれて消えそうな、けれど重たく響く声。
それは父親という仮面を脱ぎ捨てた、紛れもないひとりの男としての本音だった。
胸の奥で、心臓が破裂しそうなほど激しく跳ね上がる。
父の口からそんな言葉を引き出せるなんて。甘美なショックと同時に、どこかでそれを狂おしいほど求めていた己の欲望を思い知らされる。
「お父さん……」
震える声でその名を呼んだものの、それ以上言葉が続かない。
けれど、父が漏らしたその素朴で生々しい告白は、私の胸の最も深い場所を熱く貫いていた。
父は耳まで朱に染め、たまらなくなったように視線を床の木目へと落とした。
まるで罪を犯した少年のような無防備な顔で、蚊の鳴くような声で呟く。
「梨亜……もしかして、彼氏でもできたのか?」
マグカップを持っていた私の手が、ピタリと止まる。
その言葉の裏に隠された、娘を奪われることへの恐れと、男としての焦燥感。それが部屋の空気を伝って肌に痛いほど刺さってくる。
私は、熱い湯気を立てるマグをそっと父の前に置き、ゆっくりと首を横に振った。
そして、父の瞳を真っ直ぐに見つめ直し、静かに告げた。
「違うよ」
余計な言い訳は要らなかった。その一言だけで、全ては伝わるはずだった。
髪に櫛を通し、胸元の開いた服を選び、何度も何度も鏡の前で頬を赤らめていたのは、名前も知らない誰かのためなんかじゃない。
ただ――お父さんに、私だけを見てほしかった。
世界中でただ一人、あなたにだけ、女として変わっていく私に気づいてほしかった。
そして……その唇から、私を惑わす言葉を囁いてほしかったのだ。
「いや、変だと言っているわけじゃないんだ。ただ……」
そこで言葉が途切れ、途方に暮れたように口ぐもる。
私は逃げ道を塞ぐように、まっすぐに父の揺れる瞳を見つめた。
逃がさない。この部屋の静寂も、父が振り絞ってくれたほんの少しの勇気も、絶対に無駄にはしない。
「ただ……なに、お父さん?」
問い詰めるのではなく、甘く包み込むように促すと、父は顔を歪め、苦痛に満ちた表情を浮かべた。
「ただ……その……。……ドキッとする、というか……」
かすれて消えそうな、けれど重たく響く声。
それは父親という仮面を脱ぎ捨てた、紛れもないひとりの男としての本音だった。
胸の奥で、心臓が破裂しそうなほど激しく跳ね上がる。
父の口からそんな言葉を引き出せるなんて。甘美なショックと同時に、どこかでそれを狂おしいほど求めていた己の欲望を思い知らされる。
「お父さん……」
震える声でその名を呼んだものの、それ以上言葉が続かない。
けれど、父が漏らしたその素朴で生々しい告白は、私の胸の最も深い場所を熱く貫いていた。
父は耳まで朱に染め、たまらなくなったように視線を床の木目へと落とした。
まるで罪を犯した少年のような無防備な顔で、蚊の鳴くような声で呟く。
「梨亜……もしかして、彼氏でもできたのか?」
マグカップを持っていた私の手が、ピタリと止まる。
その言葉の裏に隠された、娘を奪われることへの恐れと、男としての焦燥感。それが部屋の空気を伝って肌に痛いほど刺さってくる。
私は、熱い湯気を立てるマグをそっと父の前に置き、ゆっくりと首を横に振った。
そして、父の瞳を真っ直ぐに見つめ直し、静かに告げた。
「違うよ」
余計な言い訳は要らなかった。その一言だけで、全ては伝わるはずだった。
髪に櫛を通し、胸元の開いた服を選び、何度も何度も鏡の前で頬を赤らめていたのは、名前も知らない誰かのためなんかじゃない。
ただ――お父さんに、私だけを見てほしかった。
世界中でただ一人、あなたにだけ、女として変わっていく私に気づいてほしかった。
そして……その唇から、私を惑わす言葉を囁いてほしかったのだ。

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