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姉枕
第1章 東京……十八歳
 僕も姉さんにすがるように言った。順路もわからない。足元も見えない暗闇では、一歩進むことすら、すさまじい恐怖なのだ。
「と、とりあえず、前に進んでみれば?」
 姉さんの声は明らかに震えていた。まさかこんなにも真っ暗だとは想像もしていなかったのだろう。
「わかった。ちゃんとついてきてよ」
 僕も震える声で言い、姉さんの存在を常に確認できるように、後ろに手を回した。すると、その手に何かが絡みついてきた。ビクッとしたのは一瞬で、すぐに姉さんの手だとわかった。
 僕の指に、姉さんの指が絡みついていた。姉さんの指から不安や恐怖が感じられた。同時に、姉さんという女の子のか弱さも感じた。姉さんに頼られている気がして、僕は少しだけ気持ちを持ち直した。大丈夫、怖くない、と自分に言い聞かせ、一歩ずつ歩き始めた。
 姉さんの手を握っていないほうの手を前に伸ばして、手探りで障害物を確認しながら、前に進んだ。どこから何が突然、飛び出てくるかわからない状況に心臓はバクバクしっぱなしだったけど、何が起こっても姉さんの手は離さないぞ、と強く決意していた。
 そのおかげで、恐怖も和らいだ。廃墟となった写真スタジオを巡るというコンセプト通り、真っ暗な通路を抜けるたび、古ぼけた心霊写真のパネルが飾ってあるエリアがあった。心霊写真にはさまざまなトリックが仕掛けられていた。
 写真の男の目が動いたり、血が流れ出したりと、恐怖をあおる演出が次から次へと繰り出され、そのたび、姉さんは「ひぃ!」と変な悲鳴をあげた。
 僕は逆に、あまりの恐怖に声が出ず、固まってしまっていた。
 いつの間にか姉さんは手をつなぐだけでなく、僕の腕にしがみついてきていた。姉さんの柔らかい体の感触や、体温、桃のような香り、今にも泣きそうな息遣いまで間近で感じられたが、僕は僕で、常に次は何がくるのかと気を張っている状況だったから、嬉しいのに怖い、という変な心境に陥っていた。
 最後のエリアでは、恐怖に身を寄せ合っている僕と姉さんの姿をパシャリと撮影された。思えば、姉さんと二人で写真を撮ったのはこれが初めてであった。うちには、カメラというものがなく、写真を撮ってくれる人もいなかったからだ。
 やっとの思いでお化け屋敷を出ると、姉さんは急に息を吹き返したようにケラケラと笑い、またしても僕が怖がっていた様子を冷やかしてきた。
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