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姉枕
第1章 東京……十八歳
 それでも地上に夜空が落ちてきたような東京の夜景を、姉さんと並んで眺めていることが夢のようだった。
「姉さんの家は、どのへん?」
「ええ~。どっちやろ。ここからだと、新宿のもっと奥のほうやから……」
 三百六十度パノラマの展望台の中で、姉さんは真剣に探し回ろうとした。
「まあ、ええわ。これから行くんやし」
「……そうやね」
 姉さんは少しはにかみ、上目遣いでちらりと僕を見上げてきた。
 ここには僕たちを知る人は誰もいない。
 


 ここが姉さんの住んでいる街か。
 浜松町駅から山手線で新宿駅、そこから中央線に乗り換えて約八分で辿り着いた阿佐ヶ谷駅は、未来都市を彷彿させるお台場とは真逆の、時代から取り残された昭和レトロな雰囲気のある下町だった。
 ちょうど午後九時を過ぎた時間帯で、駅構内は仕事帰りの人たちでごった返していた。
 まず、僕が驚いたのは高架下だった。駅のガード下に商店街があった。
 三人以上は並んで通れないほど狭い通路に、定食屋や居酒屋、理髪店などが並び、煙草の吸い殻や空き缶なんかもところどころに散らばっていた。
 換気も悪いのだろう。空気がよどんでいて、なんだか生臭い。人の吐くお酒の匂いとか、長年の雨水が浸透して腐ったような臭気も漂っていた。
 泥酔しているのか、それともホームレスなのかわからない老人が膝を抱えて座っていた。そのそばを、スーツ姿のオジサンやOLっぽいお姉さんが当たり前のように通り過ぎていく。僕の前を歩く姉さんも同じように、老人には見向きもしなかった。
 駅前のロータリーに出ると、バスも多かったけど、タクシーも十台以上、待機していた。
 順番待ちの人々を乗せて走り出すその光景は、工場のベルトコンベアーを使ったライン作業を思わせた。
 ロータリーの周りには、高さがバラバラの雑居ビルが密集していた。
 学習塾やヨガ教室、不動産屋、消費者金融などの看板があり、それらはパチンコのネオンにチカチカと反射していた。
 夜なのに空が明るく、噂には聞いていたけど星が一つも見えなかった。
 雑踏の中で、こっちよ、と姉さんが言った。
 ロータリーのすぐ先に、道幅は広くないが居酒屋やカラオケ屋さんが並ぶ通りがあり、ひときわネオンがきらめいていた。
 道の真ん中には、ミニスカートのギャルが行き交う人々にすり寄っては、ティッシュを配っていた。
「はる、早く」
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