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近くて甘い
第57章 紳士と獣
だが、

唇は重なることなく…


聞こえてきたのは意外な言葉だった。




「………………ごめん、つい…」




………は?




拍子抜けした加奈子は瞑っていた目を開いて要のことをみた。


もう自分のことは見ていない。

そして気付いたら手の平も離れていっていた。




「っ……あっ、あの…」




「紅茶、冷めるから飲もうか…」




突然いつもと同じ笑顔を見せた要は立ち上がるとそのまま加奈子の隣に少し間を空けて腰を下ろした。




ごめんって……


ごめんってどういうことだろう…




やっぱりお前とはキス出来ないってこと…?




私にはそこまでの色気は、ないって…そういうことかな…っ。




考え込んで落ち込んでいる加奈子のことには気付かずに、要も要で自分を取り戻そうと慌しく紅茶を飲んでいた。


どちらが話すこともなく、カチャリカチャリとティーカップの音だけが響いて、気まずさが増していく。



何か話さなくては…



そう二人が意気込んだとき。




「「あのっ…」」



声が揃ってしまったことにお互い目を丸くすると、ふっと緊張の糸が切れたように顔を見合わせて笑った。


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