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人妻コレクション~他人に抱かれる妻たち
第10章 菜々姫~囚われた戦国の美妻
「松寿丸様も早五つでござるな」

「いよいよ藤川の再興をかけて、攻めに出るときぞ」

春の陽光を浴びながら、勝重は家臣に言った。

この地に流れつき、五年が経過した。

僅かな家来のみが生き残った藤川家も、五年で確実に拡大を図っていた。

その象徴が、この地で生誕した勝重の長男、松寿丸であった。

「これ、松寿丸、待ちなされ」

楽しげに庭を走り回る世継ぎ、それを追う妻の姿を、勝重は笑顔で見つめる。

「殿、奥方様もすっかり元通りに」

「ここに来た当時は、菜々も落ち込んでいたものじゃが」

「松寿丸様が生まれてからでしょう、奥方様が回復されたのは」

「最近、ますます美しうなりよったわ」

菜々は息子を追うように外に駆け出した。

たくましく、活発な松寿丸。

今日もまた、険しい山道の奥に走り去っていく。

「母上! はよう!」

菜々は息を切らし、息子を追った。

なぜかこの日は妙な胸騒ぎを感じながら。

「松寿丸! どこじゃ!」

深い森の中、姿を消した息子の声はどこからも返ってこない。

「松寿丸!」

次第に恐慌を感じ、菜々は深い草木の中を進んだ。

そのときだった。

「母上!」

森の奥深くに、小さな息子の後姿が見えた。

「松寿丸・・・・」

息子の目の前に、唸り声をあげた巨大な狼が一匹いた。

「母上、怖いよ・・・・」

菜々は動けない。

興奮した野獣は唾液を垂らし、まさに今、息子に襲い掛かろうとしている。

「誰か!・・・・、誰か!・・・・」

菜々が叫んだ時・・・・。

突如、野獣が悲鳴を発し、地に崩れ落ちた。

「母上!」

駆け寄った息子を、菜々は強く抱きしめた。

そして、恐る恐る、野獣のそばに近づいた。

息絶えた獣の背に、深々と短刀がささっている。

「母上、これは・・・・」

母を見つめ、息子は不思議そうに声を漏らした。

菜々の顔が僅かに歪んだ。

上空の木々を見つめるが、無論何も見えない。

爽やかな風が、葉を揺らしているだけだ。

何かの存在を菜々に伝えるかのように。

沈黙の後、菜々は息子に教えた。

「そなたの父が助けてくれたのです」

「父上が?」

「そうじゃ・・・・。そなたの父が、な・・・・・」

涙を流す母を不思議そうに見つめながらも、息子はその手をきつく握りしめた。

<第十章 完結>
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