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左手薬指にkiss
第1章 日常スパイス
 十二時近くなって、寝室でスケジュール帳を整理していると、類沢がやって来た。
「もう寝ますか?」
「……ん? 作業あるなら続けたら?」
「大したことじゃないです」
 俺はベッドに散らばったものを鞄に押し込んで寝転んだ。
 隣に類沢が座る。
 布団に入るわけでもなく、片膝立てて座って俺を見下ろした。
「なんですか」
 口元まで布団を被って俺は尋ねる。
 それをゆっくり押し退けながら類沢は小さく云った。
「………瑞希は変わらないな」
「え?」
 胸元に触れた手を掴む。
 仄かに熱っぽい。
 酔ってるのだろうか。
 そこではっとする。
 眼が、また変わってる。
 思い出した。
 記憶の中の眼。
 乱暴に抱かれたあの夜の。
 鳥肌がざわりと立つ。
 指先が首筋を撫でて、肩に力が入る。
「やっ……」
 俺が声を上げた途端、類沢がぱっと手を離した。
 感覚だけ残して。
「類さ」
「明日は寝坊させてくれる? 電気消すよ。おやすみ」
 言いかけた口を無理やり歪ませる。
「……おやすみなさい」
 パチン。
 暗くなった部屋に呼吸が厭に響く。
 ざわざわ。
 もやもや。
 寝れそうにねえよ。
 あんな眼見て。
 先生。
 俺は変わらない?
 なら、貴方は何が変わったんだ。
 吐き出してくれないのなんて、我が儘な欲求なのかな。
 でも、わかってるんだよ。
 気づいてるんだよ。
 ねえ、先生。
 口に出してくれないなら、俺が行動に移すから。
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