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左手薬指にkiss
第1章 日常スパイス
 ハア。
 溜め息が零れた口を押さえる。
 そのまま煙で飲み下すように煙草を咥える。
 肺を麻痺させていく白い煙。
 落ち着くのか一種の麻酔か。
 目頭を指圧して眼を瞑る。
 静まりそうにない。
 一週間前から。
 いや、もっと前から。
 疼き?
 視界を占める瑞希を壊したくなる。
 さっきも寝顔を見て、いっそあの細い首を手折ってしまえば楽になれるかなんて馬鹿な想像した。
 結果は目に見えている。
 すぐに虚無感に負けて後を追う。
 けど僕が逝く先は別だ。
 そんなの今より文字通り地獄だ。
 灰皿に灰を落とす。
 別に飽きた訳じゃない。
 落ち着いた日々に満足している。
 でもどこか、おかしくなり始めてる。
 怪我をした瑞希を庇うのは終わった。
 だから……
 ああ、それからだ。
 自ら植え付けたトラウマを思い出させるような行為に惹かれるのは。
 相当狂ってるな。
 本当に救いようがない。
 月夜を眺めて自嘲する。
 愛を囁くセックスが合わないってこともない。
 ただ、今までと余りに違う平穏に未だに慣れてないんだ。
 姉さんに大切にと言われた瑞希を傷つけたくなるなんて、どこまでも捻くれてる。
 煙草を潰して仰向けになる。
 今日もソファで就寝。
 こんなんじゃ疲れも回復しないな。
ー瑞希は変わらないなー
 なんであんなこと云った?
 自分の変化に気づいてほしいのか。
「……笑える」
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