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僕の伴侶は蜷局を巻く
第2章 2
気づくと時計は十二時に近い。部屋には針が動いて響き終わったはずの音が耳の中で残り、感覚から催促されているようだ。西洋では、もうすぐ闇から悪魔が這い出る時間。
ミハルは父を見やった。娘の決意に気づいたのか、バサラも顔を上げた。しかし、その目には抵抗的な炎を感じた。武士として戦った頃の父だ。今では、人間の目から見れば、ややユウキの方が年上に見えるだろう、父は若武者のように口を開いた。
「取り消しだ!」バサラは、力強く言い放ち立ち上がった。「全てはワシの責任だ。娘を売るようなマネをしてすまない。切り抜けよう」
ミハルは笑みを浮かべ、声を出さずに、ありがとうと言った。
「で?」冷酷な白い肌の人の皮を被った悪魔が答えを迫った。「どう決まったのかな?」
「アンタを心の底から憎むと決めたわ」ミハルは吐き捨てるように言った。
ユウキは白手を取り、片手を上げ、指の背で彼女の顎に触れた。ミハルはとっさに身をすくめたが、実際には、彼の手つきは驚くほど優しかった。肌が触れ合った瞬間の火傷をしそうな熱さに、彼女はたじろいだ。ユウキに目を覗きこまれ、息することも身動きすることも、ままならない。子供の頃は彼の布団中に忍びこんで遊んでいたのに…。
「憎しみなど、時間の無駄だよ。それこそ餓鬼にも劣る人間の姿だ。お嬢様はインドラの血を継ぎ、両親と富に恵まれたのだから淑女であって頂きたいな」
ユウキが身体の向きを変えた隙に、ミハルは貪るように息を吸った。
「まぁ…。週明けに、ここを出ていってもらおう」
「断るわ!」
ユウキが不思議そうな表情で振り返った。
「〝断る!〟とは?」
「出ていかない!ってこと」
「ミハル」バサラが縋るように訴えた。「ダメだ。そんなことを言っては」
ユウキは片手で父上を制し、悪魔のような目でミハルの縦長な瞳を覗きこんだ。顔は真剣な表情だ。「続けろ」
ミハルは大きく息を吸い、力を与えてくれるよう、神に祈った。兄に祈った。
母の為に。家族の為に。
「わかったわ」ミハルは囁き声で答えた。蛇尾はしっかり床を踏みしめているというのに嫌いな浮遊感の感覚に襲われフワ~っとした変な気分だ。「ユウキと結婚するわ」
その瞬間、時計の鐘が鳴り響いた。十二時ジャスト…。
ミハルは父を見やった。娘の決意に気づいたのか、バサラも顔を上げた。しかし、その目には抵抗的な炎を感じた。武士として戦った頃の父だ。今では、人間の目から見れば、ややユウキの方が年上に見えるだろう、父は若武者のように口を開いた。
「取り消しだ!」バサラは、力強く言い放ち立ち上がった。「全てはワシの責任だ。娘を売るようなマネをしてすまない。切り抜けよう」
ミハルは笑みを浮かべ、声を出さずに、ありがとうと言った。
「で?」冷酷な白い肌の人の皮を被った悪魔が答えを迫った。「どう決まったのかな?」
「アンタを心の底から憎むと決めたわ」ミハルは吐き捨てるように言った。
ユウキは白手を取り、片手を上げ、指の背で彼女の顎に触れた。ミハルはとっさに身をすくめたが、実際には、彼の手つきは驚くほど優しかった。肌が触れ合った瞬間の火傷をしそうな熱さに、彼女はたじろいだ。ユウキに目を覗きこまれ、息することも身動きすることも、ままならない。子供の頃は彼の布団中に忍びこんで遊んでいたのに…。
「憎しみなど、時間の無駄だよ。それこそ餓鬼にも劣る人間の姿だ。お嬢様はインドラの血を継ぎ、両親と富に恵まれたのだから淑女であって頂きたいな」
ユウキが身体の向きを変えた隙に、ミハルは貪るように息を吸った。
「まぁ…。週明けに、ここを出ていってもらおう」
「断るわ!」
ユウキが不思議そうな表情で振り返った。
「〝断る!〟とは?」
「出ていかない!ってこと」
「ミハル」バサラが縋るように訴えた。「ダメだ。そんなことを言っては」
ユウキは片手で父上を制し、悪魔のような目でミハルの縦長な瞳を覗きこんだ。顔は真剣な表情だ。「続けろ」
ミハルは大きく息を吸い、力を与えてくれるよう、神に祈った。兄に祈った。
母の為に。家族の為に。
「わかったわ」ミハルは囁き声で答えた。蛇尾はしっかり床を踏みしめているというのに嫌いな浮遊感の感覚に襲われフワ~っとした変な気分だ。「ユウキと結婚するわ」
その瞬間、時計の鐘が鳴り響いた。十二時ジャスト…。